北杜夫『楡家の人びと』

数十年を経ての再読。最初に読んだときは子どもの本から大人の本への移行期だったので、適切な感想をもてなかった気がする。そのときはぼんやりと悲劇と思ったが、今回読んでみて、少なくとも第一部と第二部はむしろ喜劇だった。 著者である北杜夫の生家斉藤家をモデルに楡家の人びとを描いた年代記。単...

北杜夫『白きたおやかな峰』

国家をはじめとする集団が幻想であるというのは散々語り尽くされているが、他方個人というのも文化的な構築物に過ぎず、西洋と東洋で云々というのもその対句のように語られることである。しかし、その構築物のはずの個人が否応なしに自動的に立ち上がる場所がある。そのひとつが山岳だ。山岳小説を読み...

北杜夫『星のない街路』

北杜夫のSF作品の『不倫』が読みたくて(タイトルは失念していた)この前SF作品集『人口の星』を読んだのだが収録されてなくて、ほんとうはこっちを読むべきだった。表題作だった『人口の星』は本編にも収録されている。そのほかの作品も、北杜夫の短編集一冊選ぶとしたらこれという感じの、バラエ...

北杜夫『人工の星』

そういえば北杜夫にSF的でなんともいえない味わいの作品あったよなと思ってつきあたったのがこの本。北杜夫の作品の中からSF的なものをかき集めたアンソロジーだ。読み終わってわかったのだが、ぼくが読みたかった作品は収録されてなかった。 軽くて短いショートショート作品が多い。そのなかでは『...

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』

夜と霧の隅でからさらに遡っておそらくこの本が一番最初に読んだ「大人の本」だったと思う。 1958年11月から1959年4月まで半年近く、筆者が船医として水産庁の漁業調査船に乗り込んだ航海の記録。60年近く前の航海日誌読んで意味があるのかなんて考えもしたが(それをいうなら初めて読んだ...

北杜夫『夜と霧の隅で』

子供の本から大人の本への移行期に読んだ本を何十年かぶりで再読してみた。『ドクトルマンボウ航海記』が気にいって小説に手を出したのだが、あの頃の自分にどれだけわかったか疑問だ。 短編4つ、中編1つからなる作品集。ほとんど内容を忘れている中で、作品の好き嫌いとか良い悪い関係なく、『羽蟻の...