リチャード・ブローティガン(青木日出夫訳)『愛のゆくえ』

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

わざと内容を想像させないようにしたかのような邦題がついているけど、原題は「The Abortion: An Historical Romance 1966」、Abortion つまり妊娠中絶なんていう生々しいタイトル。でも中身は、なんといっていいかわからないような、とらえどころのない物語だ。『西瓜糖の日々』同様静けさに包まれているけれど、あそこまでのすごみはない。

本を読む人は誰もこない図書館。来るのは自分の書いた本を預けに来る人ばかり。その人たちの相手をするのが主人公の男性の仕事だ。彼はもう3年も外に出ていない。ある夜本を預けにきた絶世の美女ヴァイダと彼はまたたく間に恋に落ち、二人は一緒に暮らし始める。ヴァイダの妊娠が発覚し、二人は中絶をするためメキシコまで一日がかりの旅をする、といった感じのストーリーだ。

現代日本の視点でみると、ひきこもりの男が女性の力を借りて外に出るという寓話が読み取れなくもないけど、別にそこにドラマがあるわけではない。彼はもとからどこにでもいくことができたのだ。しいていえば原題にある1966という年(たまたまぼくにとっても思い入れのある年でもある)の空気を描いた作品なのかもしれない。物語の最後で図書館から外に出た主人公が、はじめてビートルズの曲をきくシーンがある。そのアルバムが「ラバー・ソウル」なのだ。「Michelle」や「In My Life」などが入っている名盤で、1965年の年末に発売されている。

★★