伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』

哲学思考トレーニング

クリティカルシンキングの入門書。クリティカルシンキングというのは、聞いたこと、読んだことをそのまま信じるのではなく、かといって聞く耳をもたずその場で否定することでもなく、相手の主張を批判的に吟味して正しいかどうかを見極めるための方法論だ。

書いてあるのは突飛ではなくある意味当たり前のことだ。でもそれが難しい。

まずは議論の明確化。前提と結論をぬきだし、その間をつなぐ推論の流れをとらえる。ここでは相手の議論に多少抜けている部分があったとしても、補って解釈するというような「思いやりの原理」が必要とされる。ネットでよくあるように、相手のあげあしをとってわざと意地悪に解釈するのは、「わら人形論法」といってきつく戒められるそうだ。

次に文脈の検討。批判的に吟味するといってもどの程度やればいいかは千差万別だ。人命に関わる場合や哲学的に考察する場合は徹底的にやらなくてはいけないし、明日の晩ご飯ならあまり徹底すると食べられなくなる。そこで、あらかじめ、どの文脈で吟味するかを決めておく。つまり、何のために吟味しているのかを明確にして、その目的に応じて前提や推論方法の許容範囲が決まってくる。

そして、前提や推論の妥当性を文脈に応じて検討し、結論が正しいかどうかが結論できる。

この方法は事実に関する主張だけでなく、「~するべき」というような価値的な主張にもある程度適用できるそうだ。価値的な主張の場合には特に言葉の定義がずれていることが問題となるので、「分厚い記述」ではなく「薄い記述」(辞書的な最低限の定義)で合意をとる必要がある。

いくつか注意しなくてはいけないポイントがあるものの、そのあと、文脈を決めて、前提と推論の妥当性をみてゆくのは事実に関する主張と同じだ。

日頃、あいまいに文章を読み、あいまいに書き散らしているが、それがお互いあいまいな反感をつのらせることになるかもしれない。特に価値的なことを書くときは自分自身をクリティカルシンキングの対象にしなくてはと思う。