町田康『権現の踊り子』

権現の踊り子

昔筒井康隆の小説を読みながら悪人のようなほっほっほという笑みを浮かべていたが、今は町田康の小説を読みながら同じ笑みを浮かべている。

中編や長編では、語り手=主人公が自らの自堕落さもあって悪夢的な世界に巻き込まれるというパターンが多いが、本書は短編集なので、時代劇もあったりして、バラエティに富んでいる。語り手以外の人物を中心に描かれている作品もいくつか収録されているのだが、その中で一番魅力的なのは『工夫の減さん』だ。

減さんはなんでも自分なりに工夫してみなければ気が済まない性格で、お金や手間の節約という本来の目的がうっちゃられて工夫が自己目的化している。そのせいで減さんはいつも困窮しているのだが、それでも工夫をやめようとは金輪際考えない。そんなだめだめな減さんだけど、最後にちょっとだけかっこいいと思い、その生き様にあこがれてしまった。