町田康『パンク侍、斬られて候』

パンク侍、斬られて候

一応時代小説といっていいのだろうか。主人公の牢人掛十之進が通りかかった旅の父娘の父の方をいきなり斬り捨てるところからはじまる。その理由を問われて、掛は彼らが腹ふり党というカルト宗教団体の一味だから斬ったという(でも間違いだったということがわかる)。

掛は超人的剣客という設定なのだけど、ヒーローとしての活躍もアンチヒーローとしての暗躍もほとんどみせることができず、おいしいところはすべて腹ふり党にさらわれている。

なんといっても、腹ふり党の教義がすごい。この世は、巨大な条虫の胎内にあるかりそめの世界で、そこから真実の世界へ脱出しなければいけないという。そのためには「腹ふり」といって、腹をふって踊るのがいい。そうやって馬鹿げた無意味なことをすれば異物として条虫の肛門から排出されると信じられているのだ。

そのパワーによってうまれるのは阿鼻叫喚そしてカオス、P.K.ディックも真っ赤の悪夢世界だ。真っ青でなくなく真っ赤なのは笑いをこらえているからで、戦慄と笑いが同居しているのだ。類い希なるとぎすまされた言語感覚がその同居を許している。町田康は超人的小説家かもしれない。