阿部和重『グランド・フィナーレ』

グランド・フィナーレ (講談社文庫)

ナボコフの『ロリータ』は、道徳を越えたある美学の果てにある、人生におけるある種の哀しみについて教えてくれたけど(ぼろぼろ泣けてしまった)、同じようにロリコン男の饒舌な一人称で書かれた本書の表題作は、確かにそこに哀しみはあるものの、どちらかといえば表層的で、道徳でも美学でもない別のものを示そうとしながら、その途中で唐突に終わってしまっている。

独特のユーモアのある文体や、「相棒」のジンジャーマンの存在はとてもよくて、とても愛すべき小説なんだけど、不完全燃焼という感は否めなかった。最近の作家の芥川賞受賞作はなぜかどれもこれもそういう作品ばかりなのは不思議だ。

それ以外の収録作は肩の力が抜けすぎとしかいいようがない(『馬小屋の乙女』は好きだけど)。