飯沢耕太郎『増補 戦後写真史ノート 写真は何を表現してきたか』

戦後写真史ノート 増補―写真は何を表現してきたか (岩波現代文庫 文芸 132)

本書は日本の戦後の写真表現の歩みを概観しようとした本であり、太平洋戦争の終結から現代までを昭和20年代、30年代、40年代、50年代以降、そして1990年以降(岩波現代文庫収録にあたり増補された章)といういくつかの年代に区切って、そのときどきに活躍した写真家、起きたムーブメント、その文化的な背景を紹介している。

読みやすい文章でおもしろく読めたけど、掲載されている写真の点数が少ないのがちょっと残念だ。

タイトルに「写真史」とあるように、ここに書かれているのは歴史にはちがいないのだけど、歴史という言葉から受ける直線さをほとんど感じないのは、戦後だけに期間を絞ると、写真そのものには技術上も表現スタイル上もあまり大きな進歩がなかったせいかもしれない。ライカの登場でスナップ写真が簡単に撮れるようになったのが1920年代だし、カラー写真の一般化もアーティスティックな写真の世界ではあまりインパクトがなかった。表現スタイルに関しても、前衛的なものを含めて戦前にもう一通り出そろっていたのだ。

ひとついえるのは、戦後間もない頃は写真はジャーナリズムだったのが、途中からアートになっていったということで、それは写真という文化の表舞台が雑誌からギャラリー、美術館に移り変わったということからもわかる。

1990年以降の写真をあつかった最終章の最後の節はデジタル写真にあてられている。私見だと、デジタルだからといって質的に変わるものは特になく、ほとんど無尽蔵に写真を蓄積できるようになったというような量的な変化しかないと思っているが、その量がいつか質にフィードバックするというのも歴史の教えるところだ。

ひょっとすると、ゆくゆくこのデジタル化ということが写真表現の歴史のターニングポイントとして記録されることになるのかもしれない。