f— title: 金子光晴『マレー蘭印紀行』 author: sugi date: 2008-08-20 url: /book/1847/ tags: [“travel”]

マレー蘭印紀行 (中公文庫)

詩人金子光晴が、1928年から32年にかけて現在のマレーシア、シンガポール、インドネシアあたりを放浪した際の旅行記。馬来(マレー)、爪哇(ジャワ)という固有名詞をはじめ、漢字が難しいけど、ぎらぎら照りつける太陽、激しい驟雨、野放図に成長する樹木など南洋のワイルドな自然を描写する文章がとにかくうつくしい。いや、文中の表現を借りれば「うつくしいという言葉では云足りない。悲しいといえばよいだろうか」。

自然同様人々の生き様もワイルドでたくましく、さまざまな民族の人々が貧しさと苦役にあえぎながらもひたむきに生きている。それもまたうつくしく悲しい。

「水は、嘆いてもいない。挽歌を唄ってもいない。それはふかい森のおごそかなゆるぎなき秩序でながれうごいているのだ」。たぶん、人も同じだ。