北杜夫『どくとるマンボウ航海記』ebook

どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)

夜と霧の隅でからさらに遡っておそらくこの本が一番最初に読んだ「大人の本」だったと思う。

1958年11月から1959年4月まで半年近く、筆者が船医として水産庁の漁業調査船に乗り込んだ航海の記録。60年近く前の航海日誌読んで意味があるのかなんて考えもしたが(それをいうなら初めて読んだときもかなりの年月が経過していた)、あとがきに「大切なこと、カンジンなことはすべて省略し、くだらぬこと、取るに足らぬこと、書いても書かなくても変わりないが書かない方がいくらかマシなことだけを書くことにした」とあるからだろうか。まったく古さは感じなかった。

寄港地はシンガポール、スエズ、リスボン、ハンブルク、ロッテルダム、アントワープ、ル・アーヴル、ジェノヴァ、アレキサンドリア、コロンボ。つまりヨーロッパにいって帰ってくるコースだ。観光目的の海外旅行が解禁されるのが1964年なので、留学生試験に落ちたがあこがれのドイツの地を踏みたい筆者にとってはまさに渡りに船だった。

筆者独特のぶっ飛んだユーモアと漂う詩情がすばらしく、ところどころ引用される文学者の言葉や博物学的な知識にうならされた。陸上の町の様子は時を経て変化しているだろうが、船上の生活は普遍的でたぶんそんなに変わってない。その単調さは人に思索をもたらす。それがこの作品を生み出し、そして作家北杜夫を作り出したのかもしれない。