グレッグ・イーガン(山岸真訳)『シルトの梯子』ebook

シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)

約2万年先の未来。最新の理論では1/6兆秒で崩壊するはずの構造から別の宇宙が誕生し、際限なく広がりわれわれの宇宙を侵食しはじめる……。

最近読んだイーガン作品は人類以外の異形の知的生命が主人公だったが、今回は未来のぼくたちホモサピエンスが主人公だ(後半、異形の生物もでてくる)。といってもそのありようは大きく変化している。

まず肉体は交換可能なものになり、精神はソフトウェア化されバックアップを複数持つことができるので、実質寿命は永遠だ。性別はなくなり単一の性で、特定の相手に触発されて交接のための器官が生えてくる。

性は一つになり、特に描かれてないが人種という概念も完全に過去のものになっているようだ。ただ新しい区別として非実体主義者というのがあって、彼らはなるべく物理的な人体の形をとらずソフトウェアのまま活動しようとする。もうひとつ自分の故郷の惑星にとどまり続ける人と、あちこち飛び回る旅行家という区別もある。

さらに、この物語の登場人物たちを深く分断してるのは、新しい宇宙に対する態度だ。防御派と呼ばれる人々は新しい宇宙を容赦なく破壊する方法を見つけようとし、譲渡派と呼ばれる人々はこの宇宙と共存する方法を見つけようとしている。現代の難民に対する欧米で起きている分断のメタファーかと思ったけど、この小説が出版されたのは2002年なので、特にそういうわけではなさそうだ。むしろ、知の探求と多様性の賛美といういつものイーガンのテーマがここにも顔を出しているように思う。

科学的な道具立てはいつも以上に難解なので、そこはぼくの<介在者>にまかせてスルーしつつ、<外自己>にはすべて理解したようなふりをさせるようにした。というようにこの世界では人間もモジュール化されているようだ。ツールキットをインストールできたり、いろいろ便利そうなので、早くぼくもソフトウェアになりたい。