チャールズ・ブコウスキー(青野聰訳)『町でいちばんの美女』

町でいちばんの美女 (新潮文庫)

『ありきたりの狂気の物語』と、もともとは一冊の本として出版されたものを、のちに、長すぎるだろうということで、分冊したもの。ときどき既視感ならぬ既読感におそわれたのも宜なるかな。

こちらは30編の作品が収録されている。やはりブコウスキー本人の体験がベースの虚構が薄い作品がメインだが、魔女にとらわれて身体を縮められる『15センチ』、機械仕掛けの人形との悲しく凄惨な恋『ファックマシーン』、人を洗脳して従順にする機械『気力調整機』、アメリカ大統領が連れていかれた先には……『卐』などSFといっていいような作品もいくつか含まれている。『レイモン・ヴァスケス殺し』は実録犯罪小説風だ。

いちばん心に残ったのは『人魚との交尾』。下劣さと美と哀しさが同居するブコウスキーらしい作品だった。

★★★