クリストファー・プリースト(古沢嘉通訳)『奇術師』

〈プラチナファンタジイ〉 奇術師 (ハヤカワ文庫 FT)

プリーストのおかげで物語の中に入り込むように読む楽しさを再発見中。文庫で500ページ以上あるにもかかわらず一気に読んでしまった。

原題は “The Prestige”。Prestige は現代英語では名声とか威光という意味だけどもともとは奇術とか幻影という意味だった。本文中では「惑わしの元」など様々な訳語があてられている。

駆け出しの新聞記者アンドルーはケイトという貴族の女性に呼び寄せられ彼女の屋敷を訪問する。そこで彼は二人の曾祖父が共に奇術師で敵対関係にあったと聞かされる。

時は19世紀末から20世紀初頭。奇術師アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャはひょんな巡り合わせから生涯通じての敵対関係になってしまう。競うように技を磨き、共に瞬間移動の奇術で名声(プレスティージ)をつかむが、彼らの争いはそれぞれの人生に取り返しのつかない結末をもたらす。そして三代隔てたアンドルーとケイトの世代にも、ある謎と影を投げかける。

「双生児」あるいは「分身」というモチーフがこれでもかというくらい多重に繰り返される。他に『双生児』という作品(いずれ読むつもり)もあるし、『夢幻諸島から』でもこのモチーフが多用されたので、プリーストにはなにかオブセッションがあるのかと思ったら、彼には双子の子息がいるらしい。なるほど。

出来事を一方の立場から描いた後、もう一方の立場から描くことで、その出来事の隠された側面が明らかになる手法が効果的だった。

★★★