小山田浩子『工場』ebook

工場 (新潮文庫)

3編収録の中短編集。

表題作の『工場』は巨大な工場で働く立場の異なる3人の目から「工場」という不条理空間を描いた作品。不条理と書いたがこの工場はごく普通の日本の大企業であり、そういう場所を経験したことのある者からみたらごく日常的なことしか起きない。むしろ今の標準的な労働環境からみれば恵まれているといえると思う。ただ、契約社員、派遣、正社員と立場の異なる3人からは、この奇妙な身分制度の不条理が浮かび上がってくるし、「工場」は一定期間ぬるま湯の空間を提供する代償として彼らの自己実現を阻みとことんスポイルしようとする。これはこの「工場」に限ったことではなく、日本の会社というシステムに共通するものだ。それを奇を衒わずに描いただけで不条理文学になる。

日常的な細やかな描写の中に主に動物を介して異物感をちりばめながら最後にマジカルな描写で物語は唐突に閉じられる。

真ん中の短い『ディスカス忌』という作品が想像力を刺激されていちばん味わいを感じる。亡くなった浦部君と「妻」と赤ん坊のその後の物語は語られないままだ。

最後の『いこぼれのむし』も大きな会社の話。ラップでマイクを回すみたいにひとつの会社のあるフロアの人たちが自分からみた会社の光景を語っていく。

★★