アラン・ワイズマン(鬼澤忍訳)『人類が消えた世界』

人類が消えた世界 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

人類が今突然あとかたもなく消え失せたら、地球はどう変化するのだろう?都市は速やかに崩壊し、地表はほとんど森に覆われる絶滅寸前の動植物も息をふきかえす。本書の冒頭で予言されるそんな情景を思い浮かべると、感傷と安堵がいりまじったような複雑な気分になってくる。

しかし、本書のトーンは人類という死者を悼むような甘ったるいセンチメンタリズムではなく、マンモス、サーベルタイガー、リョコウバトなど人類が絶滅に追いやった数々の生物種、プラスチック、化学物質、放射性廃棄物などの人類がいなくなって後もなかなか消え去らない負の遺産、そして人的要因による気候の変動などにスポットライトをあて、むしろ人間の罪深さを告発するような内容になっている。

そして、単なる思考実験であるかのように最初に設定された、人類が滅亡するというシナリオが、実はそんな荒唐無稽じゃなくて、自らが行ってきた行為のつけとして十分あり得るということが暗に示されてゆくのだ(もちろん、静かに消え失せるというのは超楽観的な想定で、ほとんどの場合断末魔の中で地球にさらにたくさんの傷を負わせることになるだろう)。

綿密で冷徹な筆致で描かれた、自分たち自身の生前葬のためのレクイエム。