岡田暁生『西洋音楽史----「クラシック」の黄昏』

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

西洋芸術音楽の歴史のはじまりから終わりまでを明晰でめりはりのきいた表現で解説した本。

はじまりは中世のグレゴリオ聖歌から。単旋律で純宗教的な音楽が、徐々に複雑化、世俗化していき、ルネサンス時代の音楽になり、それがやがてバロック以降のいわゆる「クラシック音楽」につながってゆく。

絶対王制下のドラマチックなバロック音楽、市民階級のための啓蒙的な音楽であるウィーン古典派、そして音楽の大衆化が進み作曲家たちがこれまでにない自由を得て、百家争鳴のロマン派で絶頂期を迎える。19世紀末から第一次大戦までの最後の輝きの時代を経て、難解で前衛的な作品の登場はさらなる歴史の跳躍と当事者たちは思っていたようだが、実際にはそこで歴史は終わってしまった。

西洋芸術音楽は、新作の供給という面からは公式文化の座をすべりおち、サブカルチャーのひとつになってしまったのだ。代わりに、古いレパートリーの再演が西洋芸術音楽の主たる部分として残り[指揮者のアーノンクールの言葉に「18世紀までの人々は現代音楽しか聴かなかった。19世紀になると、現代音楽と並んで、過去の音楽が聴かれるようになりはじめた。そして20世紀の人々は、過去の音楽くしか聴かなくなった」というのがあるらしい。]、他方ポピュラーミュージックが花開いた。

中世、ルネサンスの音楽についてはまったく知らなかったので、とても興味深かった。本文中でいくつか紹介されていたので、ぜひ聴いてみたい。

あと、バロック〜現代の音楽をふだん iPod などでランダムにきいていると、フラットで、趣味の違いとしてしか感じられなくなってしまうが、社会状況などにも影響された歴史的な変化の結果そういうスタイルの音楽になっていることが再確認できたのもよかった。

最後に、いくつか興味深い話題を拾い出しておく。

  • バッハはバロック音楽としては例外的な存在。バッハが得意とした対位法や宗教音楽は一時代前のものだった。カトリックの文化とプロテスタントの文化の違い。
  • ロマン派音楽とは、「どんどん無味乾燥になっていく時代だったからこそ生まれたロマンチックな音楽」
  • シェーンベルクの悲劇。音楽の歴史を前進させるために、前衛的な技法を生み出したが、それが結局歴史の終わりを早めてしまった。
  • 1950,60年代のモダンジャズは芸術化したが、やがてクラシックと同じ歴史をくりかえし、前衛と娯楽に分化した。