フリッツ・ライバー(中村融編)『跳躍者の時空』

跳躍者の時空 (奇想コレクション)

本書の存在を知ったのと、フリッツ・ライバーの名前を知ったのは、完全に同時。だから、受け売りで書くが、フリッツ・ライバー(1910-1992)はSF、ファンタジー、ホラーなど幅広い分野で活躍したアメリカの小説家だ。ライフワーク的な『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズが有名らしい。そのほか時代に先行するような長編小説をいくつも書いているし、中・短編も200以上ある。本書は、その中から10編をよりすぐった短編集だ。

うち5編はガミッチという猫を主人公にした幻想的な作品群。猫を擬人化するんでもなく、かといってつきはなして完全に第三者的に書くんでもなく、奇妙に視点を移動させながら、猫の目からみた世界を描き出そうとしている。

『『ハムレット』の四人の亡霊』は古典的だけどとてもよくできたゴーストストーリー、収録作の中では唯一ウェルメイド。『骨のダイスを転がそう』は細部は独特な味わいを感じるけど物語の骨格としては落語にありそう。『冬の蠅』は、食後の家族団欒のひとときを、ユング心理学的なさまざま心の中の分身が実体化して、影のようにいろどる、シュールな物語。『王侯の死』は着想に目新しさはないけどストーリーテリングが光る。

最後の『春の祝祭』は、政府の施設に閉じこもって研究を続ける数学オタクの青年のもとに、不可解な落雷とともに、魅力的な若い女性がたずねてきて、7という数に関する知的なゲームを繰り広げ、そして、むふふのふ、という、童貞中学生の妄想のようでありながら、数秘術や錬金術などにまつわる中世の幻想譚を現代に蘇らせたような作品だった。

と、こんな感じで、多種多様。幻想の突飛さも物語の構成力も、レベルが高い。もっと読まれていい小説家だと思う。

なお、翻訳は、中村融、深町真理子、この間惜しくも他界された浅倉久志の3名。