チャイナ・ミエヴィル(日暮雅通・他訳)『ジェイクをさがして』

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

13編の短編小説と1編のコミック(ミエヴィルは原作のみ)からなる作品集。

最初の数編はグロテスクなのだけが特長のホラーないしオカルトとしか思えなくて、ああ、これは間違えた本を買ってしまった、と後悔したが、読み進めるうちにだんだん楽しみ方がわかってきた。どちらかといえば目をそらしたくなるような気持ちの悪い特異点のようなもの。そこにあえて注目し、決して目を離さない。たぐいまれな表現力だけを武器に、起承転結的な説明をつけようとする力にあらがって、どこまでも最初の気持ち悪さに忠実に物語が展開する。その展開の突拍子もなさと裏腹に、具体的に挙げられるロンドンの地名。たぶん、ロンドンを知っている人にとってはそれぞれ特別な情感を呼び起こす地名なのだろう。東京に住む人にとっての、六本木とか新小岩と同じように。

一番の力作は、やはり一番長い『鏡」という作品だろう。ボルヘスの抽象的な断章をベースに具体的な終末のイメージを作りあげている。視点となるキャラクターが二人いて交互に語ったりするところや、鏡の向こう側の静謐な世界の描写が、どことなく村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を思わせて、とてもいい。