パオロ・バチカルビ(中原尚哉、金子浩訳)『第六ポンプ』

これだけ夢中になった SF(いやSF以外も含めて)短編集は久しぶり。次の作品を読むのが楽しみでしかたなかった。

どの作品もほぼ近未来のディストピア的世界が舞台になっている。炭素エネルギーが枯渇し。遺伝子改良された動物や植物が跋扈し、ネジがエネルギーの蓄積手段として復活をとげ、貧富の差が著しく拡大している世界(『カロリーマン』、『イエローカードマン』)。永遠の生が得られるようになり出産が厳格に禁止された世界で、子供を殺すのが使命の警察官の物語(『ポップ隊』)。人間が退化したトログという両性具有の生きものがあふれ、残った人間も愚鈍化が進み、設備が徐々に壊れていく世界(『第六ポンプ』)、貴族制と奴隷制のもと、人体改造で楽器にされた少女の物語(『フルーティッド・ガールズ』)。などなど。荒唐無稽どころか、現代の延長線上に十分ありえる未来像だ。

各作品に共通するのは、多かれ少なかれ倫理について書かれていることだ。人は極限的な状況においてどう生きるべきなのか。そのテーマを考えるにあたって、まず通常の善悪の観念から離れた究極的な残酷さを描きながら、そこから人間的な世界にもどってきている。だからこそ、それぞれの作品で、主人公たちがとる選択はおおむね納得できてしまう。読んでいるうちに作者に対する信頼感のようなものがうまれていった。

長編『ねじまき少女』もぜひ読まなくては。

★★★