岸本佐知子編訳『居心地の悪い部屋』

居心地の悪い部屋

「読み終わったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、何だか落ちつかない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説」ばかり1ダース集めたアンソロジー。確かに居心地は悪いけど、読み心地は絶品で、すらすらとページをめくり、あっという間に読み終えてしまった。

友達の部屋で友達のまぶたを縫いつけたり、死にかけた戦友の頭の中からとんでもないものが飛び出してきたり、自宅に訪ねてくる途中の父母が次から次へと災難に見舞われ電話があるたびに状況が悪化していたり、自分のいびきを録音しようとしてテープをまわしたら知らない男女の声が入っていたとか、居心地の悪さはさまざま。

特に印象的な作品を二編選ぶと、ひとつはルイス・ロビンソン『潜水夫』、もうひとつは最後のケン・カルファス『喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ』。前者は美しい妻と子供がいてヨットを所有するような男が、一見粗野な潜水夫の男に翻弄される話。何かこれといって重大なことがおきるわけじゃない地味な話だけど、読者の先入観を次から次へと裏切っていく、話の運びがすばらしい。後者は、野球場を舞台にした野球のトリビアの体をとりながら、いつの間にか野球場の外に連れ出されてしまう不思議な物語だった。

★★★