円城塔『後藤さんのこと』

後藤さんのこと (ハヤカワ文庫JA)

世の中に自分がわからないことがあるのを認めたくない質だ。もちろん、わからないものの方が圧倒的多数ではあるわけだが、ちゃんと時間をかけてがんばれば片鱗くらいはつかめるんだぞというポジションを確保しておきたい。もちろん、それはいつでも可能というわけじゃなく、頭がちゃんと働いている時間を選ばなくてはいけない。だから、起きがけで頭が朦朧としている朝の通勤時とか、仕事で消耗している帰宅時の電車の中とかは、最悪なコンディションなわけだ。

さて、前段で述べたように、『後藤さんのこと』は読む時期を選ぶ本だった。まさにこの最悪のコンディションで読み継いできたため、全然頭に入らず敗北感の末に睡眠に誘導されていた。読んだというより最後までページをめくったという感じだ。このままだと敗北感が残ってしまうので、いちばん完成度が高いと思った、最後の『墓標天球』を読み返した、もちろん頭がさえているときに。

球の表面で直角に交わる3つの大円上の時間をめぐる主人公たち3人、少女、少年、そして「私」。それぞれの大円=時間が交わる(つまり3人のうち2人が出会う)6点が、球を立方体に変形して階段状の展開図にした順序で語られる。という幾何学な物語の構成があって、そこで詩的でさまざまな象徴にあふれたエピソードが玉突きみたいに連鎖する。『考速』や『ガベージコレクション』も幾何学的構成ありきの話だけど、やはりこの『墓標天球』がすごい。

表題作の『後藤さんについて』と『The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire』はコミカルで読みやすかった。

★★