古川日出男『LOVE』

LOVE (新潮文庫)

ぼくの中で古川日出男の作品は、好きな作品、嫌いな作品わりとはっきりわかれている。『サマーバケーションEP』は時折読み返したくなる作品のひとつだが、『聖家族』とか『ハル、ハル、ハル』は苦手だ。この本は読み始めてすぐに好きな作品に仲間入りしていた。そして、この二つのグループで何がちがうかといえば、そこに「LOVE」があるかないかじゃないかと思いいたった。

「LOVE」といっても恋愛など特定の対象に向けられた愛情はこの作品にはほとんど出てこなくて、もっとふわりとしたものだ。街、猫たち、そしていびつなものやダークなものを含めたこの世界へのLOVE。

9つのパートから構成されていて、ABABABABA の A の部分は中編小説、ひとりの語り手がさまざまな登場人物を紹介していって、それぞれの世界線が交錯するさまを物語として語り、そして最後に語り手(=登場人物のひとり)の正体が明かされるというパターンを踏襲する。それぞればらばらというわけではなく、登場人物の重なりやエピソードの連続性がある。Bは街のガイドという形ではじまりながらその街の特徴的な猫について語る猫ガイド。というように複雑な構成だが、あとがきによればこの作品は巨大なひとつの短編小説であるとのこと。

すべてのパートの舞台は東京南部、目黒区、品川区の目黒川流域あたり。歩き尽くしている地域なので、地名やランドマークの名前が出てくるたびに脳裏に風景が浮かび上がり、本を読みながら散歩を楽しむことができたのだった。

★★★