ジョン・スコルジー(内田昌之訳)『アンドロイドの夢の羊』

アンドロイドの夢の羊 (ハヤカワ文庫SF)

原題は “The Android’s Dream” だが、「アンドロイドの夢」というのは羊の品種の名前なので、邦題についている「羊」は余計というわけでもない。「羊」がついてもこのタイトルがP. K. ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』へのオマージュなのはすぐわかる。だからこそ手に取ったわけだ。内容もディック風の幻想的悪夢世界を想像していたのだが、その期待はまんまと裏切られて、ウェルメイドなエンターテインメントSFだった。

人間が宇宙に進出して異星人たちと行き来している時代。近傍の星系に住むニドゥ族(トカゲ型の異星人)との国際問題が勃発し、王位継承の儀式に使うために、ある特定の遺伝子をもった羊を探し出さなくていけなくなる。地球国連政府国務省の職員ハリー・クリークは超人的なハッキング能力を駆使して秘密裏に羊の探索にあたるが、何者かにその活動を妨害され、地球人類とニドゥ族をまたぐ陰謀に巻き込まれる……。

単純におもしろかった。たまにはこういうSFというジャンルの中心に位置するSFらしいSFもいい。

地球とニドゥ族の力関係が現在や過去の地球のどこかにありそうな国際情勢的で興味深かった。ニドゥ族は銀河系の中では弱小種族だが、地球人類は新参者で、戦力の点でそのニドゥ族にさえまだまだ劣っていて、地理的に近いニドゥ族に頭があがらず半ば属国的な地位に甘んじていた。数十年前には相互防衛条約の名の下にニドゥ族の内乱に地球人兵士が借り出され、多大な犠牲者が出たのだった。

この設定のもとに続編がいくつか書かれているらしい。

★★