ヴィアン(野崎歓訳)『うたかたの日々』

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

フランス文学には若干苦手意識を感じていたが、ミシェル・ゴンドリー監督による映画『ムード・インディゴ』をみて原作を読んでみたくなった。読んでみたら思ったより映画と同じで驚いた。原作は言葉遊びが多いが、それが一部映像の遊びに置き換えられているが、原作の幻想というか幻覚としか思えない視覚的描写がSFXでちゃんと映像化されていたのだった。

恋人がいない以外不自由なく楽しく優雅に暮らしていたコランが、クロエという美女と知り合って結婚するが、クロエは肺に睡蓮の花が咲く奇病にかかり理不尽な不幸が立て続けに起きるという、まったく救いのない物語だ。それが『不思議な国のアリス』(あるいは『鏡の国のアリス』)というかモンティ・パイソン(もちろんこの作品のほうがずっと先だが)を彷彿とさせるブラックなユーモアを通して語られる。そのブラックさたるやまったく情け容赦がない。序盤笑いの中で無関係な人がどんどん傷つき死んでゆく。後半に至ってその残酷さが主人公たちにも向けられるだけといえばそれだけの話。あまりに救いがなくて小気味いいくらいなのだ。

これは「不思議な国」の荒唐無稽な物語ではあるが、そこにリアルで心をうつものを感じるのは、やはりこれは多かれ少なかれこの世界の物語だからだ。幸福と不幸は表裏一体の裏腹の関係で、幸福の絶頂にいた人が突然不幸になり死んでゆく。そこには特に理由なんてない。この世界そのものだ。