ポール・オースター(柴田元幸訳)『リヴァイアサン』

リヴァイアサン

才能ある作家だったサックスという男が、いくつかの偶然の積み重ねから、幸福な家庭を投げ捨てて、全米の自由の女神を破壊してまわるテロリスト(人の命は奪わず、メディアを通じてアメリカという国のありかたを改めようというメッセージを流す)になり、結局は爆死してしまう。その事故を知った、やはり作家である友人の目から、回想という形で物語は語られてゆく。

語り手は、サックスの人生の軌跡を転落としてとらえていて、ひきとめられなかったことを悔やんでいるが、でもテロリストとして生きたサックスの最後の二年ちょっとの間は、多分彼がもっとも熱意と喜びを感じていた時期にちがいない。そのときのことは小説の中では軽くしかふれられていないのだが。

『リヴァイアサン』はサックスがテロリストになる前に書いていて中断してしまった作品の名前だ。彼はこれを完成させるべきだったのだろうか。

★★★