池澤夏樹『骨は珊瑚、眼は真珠』

骨は珊瑚、眼は真珠 (文春文庫)

表題作が演劇になるというので、読んでみた。9つの短編が収められているが、まず8番目の表題作から読んだ。死んだあと骨は砕いて海にまいてほしいと言い残して亡くなった夫の視点から、妻がためらいつつもその遺言を実行するのをやさしい眼で見守る。だからといって、死後の世界とか霊魂の存在を前提にしているのではなく、見守る夫の意識というのはヴァーチャルなものだと思う。残った妻の心の中から生まれたものと考えるのが自然かもしれない。でも、その海の中に拡散して、そのヴァーチャルなものが消えていく瞬間に最後の声でいった「ありがとう」はリアルだった。

ところで、この作品をどうやって芝居にしたのだろうか。

このほか、遠くアメリカの地で、眠っている間に沖縄の祭事に参加する主婦の物語「眠る女」と、小惑星観測をめぐって南太平洋の小国の政治が垣間見える「アステロイド観測隊」は長編『マシウス・ギリの失脚』のエッセンスになった作品だと思う。

また、「眠る人々」の中の明るい水の中で眠り続ける人々のイメージは鮮烈だった。ただ、この夢をみる主人公が感じている、満ち足りすぎて不安だという気持ちは、今のぼくにはわからなかった。

★★★