ニコルソン・ベーカー(岸本佐知子訳)『中二階』

中二階

あるサラリーマンの男が、昼休みの買い物から戻ってオフィスのある中二階にエスカレータで戻るまでに見かけたり、思いついたさまざまな物事について書き綴った本。飲み物の中で浮いてしまうストローの弊害、ストローがくつひもが左右同時に切れる理由、牛乳パックの進歩と牛乳配達という職業の敗北、洗面所のペーパータオルのすばらしさ、エスカレータという乗り物の精妙なメカニズム…。

それは精密な観察力の賜物で、「バカの壁」のちょうど正反対にあたるものだと思う。ふだんは目を向けることのない日常のささいなものたちが、これほどの魅力にあふれた存在だったとは。大人になるということは、ある意味ものを見ないようにすることなのだが(正確には見るべきものと見なくてもいいものを分類する技術を身につけること)、そのフィルターのせいで、実に大事なものを見落としている気がする。そういうどうでもいいものを見ようとすることは、世の中ではオタクと呼ばれることだが、真の喜びはやはりその中にしかないような気もする。オタクにかえろう。

★★★