伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

読み終わる直前まで「オーデュポン」だと思い込んでいた。その方が響きが自然だと思う。

やけになってコンビニ強盗を働いた「僕」は、逃走の果てになぜか見知らぬ島で朝をむかえる。そこは100年以上も本土と隔絶していて、言葉を話し未来を予見することのできるかかしや、何でも反対のことを話す画家や、自由に人を撃ち殺すことが認められている男がいたりする奇想天外な島だった……。

ちょっと村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を思わせるような異世界を舞台にした作品だ。文体は、わかりやすさを旨とした飾りのないエンターテインメント系で深みにかけるとか、人の描き方も平板で、一部の病的な悪人を除けば、主人公を含めて結局みんな単純な「いい人」として描かれている、というようなあらさがしをつい書きたくなるけど、異質なものを描くには色がついていないニュートラルな語り口が向いているともいえるし、ウェルメイドなタッチはこの作品の売りといえるものだと思う。

一応ミステリーなのでいくつか謎解きがあるのだが、その中で最大の謎である「この島に欠けているものは何か」の答えが何ともいえずよかった。

★★★