町田康『きれぎれ』

きれぎれ

日本語はもう死んだと思っていたけど、町田康の言葉はいつもぴちぴちぷちぷちと生きがよくて小気味いい。

中編二本が収録されている。表題作の『きれぎれ』と『人生の聖』。これまで読んだ作品は、基本的にだめ人間のさらなる没落の軌跡という一応ストーリーの流れがあって、その中に突拍子もない幻想が紛れ込むというものだったのだけど、この二作品は、幻想が全面に出ていて、ストーリーは背後におしやられている。特に『人生の聖』はオムニバス的な構成になっていて、終わりのない悪夢のように、微妙に異なるシチュエーションで、「没落」のバリエーションが綴られてゆく。

強脳病という一時的に脳の機能が高められるがいすれ脳髄がくさってしまう病気にかかり、脳内にある果物神社にとばされたり、頭蓋をスケルトンにして脳を丸見えにして廃島に置き去りにされたり、自分の分身のような老いたホームレスを拾ってついには誤って殺してしまう……。

『きれぎれ』は芥川賞をとったのだけど、芥川賞受賞作は、著者のそれまでの最高傑作ではないという通説はここでも有効。

★★