バリー・ユアグロー(柴田元幸訳)『セックスの哀しみ』

セックスの哀しみ

『一人の男が飛行機から飛び降りる』という本を読んで、ユアグローの作品のファンになった。どれも数ページほどの短編で、夢とも幻想ともつかない不思議な物語がつめこまれていた。

本書も同じく短編集。ただし、ある程度テーマが絞り込まれていて、多かれ少なかれ恋愛に関する物語ばかり。ユアグローのことなので、ふつうの恋愛ではなく、片思いの相手に変身したりとか、キスするたびに花が飛び出てきたりとか、絞殺魔の女の子につきまとわれたりとか、奇妙なものばかりだ。

実はこの本を買ったのは4年以上前で、あともうちょっとというところで読み終えられずにいた。後半の方はユアグローの個人的体験に基づくと思われる、失恋の痛手の話が同工異曲で続いていくので、退屈にさいなまれてしまったのだ。今回最初から読み返してもその印象は変わらなかったが、こちらも少しは老成しているので、そこにある痛々しい感情がリアルに伝わってくるのだった。

あらためて読んでみると、荒唐無稽さの底に、男性から見た場合の女性というものの絶対的な他者性、恋愛という言語ゲームの不可能性がかいま見えるような気がする。そういう意味でとてもリアルな作品たちだと思う。

★★