シャーロット・コットン(大橋悦子・大木美智子役)『現代写真論 コンテンポラリーアートとしての写真のゆくえ』

本書は、コンテンポラリーアートとしての写真を、×写真家を羅列するのではなく、×様式やテーマで分類するのでもなく、×歴史を通して語るのでもなく、○写真家のモチーフや製作方法で分類し、その世界の広がりを概観しようとした本だ。 とりあげられるモチーフは8つで、それぞれ章を構成している。 こ...

最相葉月『星新一 1001話を作った人』

<img src=“http://i0.wp.com/ecx.images-amazon.com/images/I/511zAOf0GtL._SL160_.jpg?w=660" alt=“星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)“class=“alignleft” style=“float: left; margin: 0 20px 20px 0;” data-recalc-dims=“1” /> 読む本が、子供の本から大人の本へと移行する時期、ぼくも星新一の作品を手に取った。ショートショートの作品集はほとんど読...

古川日出男『僕たちは歩かない』

そんなこといわずに歩こうよ、と最初思ったが、歩かないのにはそれなりのわけがあったのだ。 1日あたりの時間が2時間多い26時間制の東京。フランス料理のシェフになるという目標を共有し、それぞれの方法でそこにやってきた「僕たち」は、増えた2時間を使って修行に励む。しかし仲間の一人が事故で...

デイヴィッド・アンブローズ(渡辺庸子訳)『リックの量子世界』

SFのジャンルの中でも並行世界ものに特に目がない。タイムトラベルものだとどうしてもいった先の時代の描写とかタイムパラドックスの回避方法なんかに紙幅を費やしてしまうが、並行世界ものは純粋にアイディアを展開できるし、物語の自由度も高い気がする。2009年の終わりから2010年のはじめ...

柄谷行人『トランスクリティーク----カントとマルクス』

高くて分厚い単行本を手にとってため息をついてまた戻したことがあったが、文庫化されたのでようやく入手。 一般的に、カント→ヘーゲル→マルクスという矢印の右側が左側を批判的に乗り越えて新たな哲学体系をたちあげたということになっているが、本書ではその真ん中に位置するヘーゲルの価値を切り下...

ジェーン・オースティン、セス・グレアム=スミス(安原和見訳)『高慢と偏見とゾンビ』

オリジナルの文章、ストーリー展開はほとんどそのままに(ただし一部のあまり主要でない登場人物たちはかなりひどい最期を遂げる)、1割だけゾンビとの戦闘シーンやちょっぴりお下劣なギャグを挿入した、『高慢と偏見』ゾンビふりかけバージョン。ゾンビ部分は、けっこうえぐい味。最初のうちこのゾン...

ジェーン・オースティン『高慢と偏見』

『高慢と偏見とゾンビ』というパロディーのマッシュアップ作品が刊行されたらしい。「これください」「ゾンビ入りにしますか、ゾンビ抜きにしますか?」「えーと」「最初ゾンビ抜きを試してからの方が、よりゾンビの味が楽しめると思いますよ」「じゃ、抜きで」 ということで、読み始めたのだが、そうで...

フリッツ・ライバー(中村融編)『跳躍者の時空』

本書の存在を知ったのと、フリッツ・ライバーの名前を知ったのは、完全に同時。だから、受け売りで書くが、フリッツ・ライバー(1910-1992)はSF、ファンタジー、ホラーなど幅広い分野で活躍したアメリカの小説家だ。ライフワーク的な『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズが有名らし...

岸本佐知子『ねにもつタイプ』

翻訳家岸本佐知子さんの奇想天外なエッセイ集。 腹をかかえたりあっけにとられたりするうちに、妙な親近感や懐かしさのようなものが芽生えてきた。なんだろうと思ったら、子供の頃に感じていた感覚なのだった。子供の頃は目にするものすべてが不思議でとんちんかんなことばかり考えていたけど、そこには...

Haruki Murakami "Blind Willow, Sleeping Woman"

われながら、村上春樹を英語で読もうなんて、かなり倒錯していると思う。もともと英語の勉強6割、読書の楽しみ4割くらいのつもりで読み始めたのだ。 まず、英語の勉強についていえば、かなり効果はあったんじゃないか。英語圏の小説だと、言葉以前に習慣の違いで理解できないことがあったりするが、こ...

矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん』

アテンション・プリーズ。太平洋戦争敗北後、日本は長大な壁で東西に分断され、西は難波商人マインド全開の資本主義国家、東は一党独裁の共産主義国家になっていた。なぜか明示はされないけどたぶん1994年、昭和天皇の崩御に伴って、壁は音をたてるように崩れてゆく。その模様を伝えるために日本に...

思想地図β Vol.1

この「思想誌」がどういう理念や文脈の元に創刊されたかということは、あちこちに書かれていると思うのであえてくりかえさない。その理念に共感し、文脈を理解しているということもあるが、今回本誌を買ったのは、ショッピングモール特集に惹かれたからだ。 ショッピングモールが好きだ。テナントが気軽...

岡田暁生『西洋音楽史----「クラシック」の黄昏』

西洋芸術音楽の歴史のはじまりから終わりまでを明晰でめりはりのきいた表現で解説した本。 はじまりは中世のグレゴリオ聖歌から。単旋律で純宗教的な音楽が、徐々に複雑化、世俗化していき、ルネサンス時代の音楽になり、それがやがてバロック以降のいわゆる「クラシック音楽」につながってゆく。 絶対王...

東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』

夢中になって、一気に読んでしまった。 東浩紀自身の分身のような哲学者・批評家・小説家葦船往人とその家族たちがパラレルワールド間を行き来し、時代を飛び越え、新たな家族の絆を模索する本格SF(Speculative Fantasy)。量子回路のネットワーク、人間の意識を媒介にしたパラレル...

川上未映子『ヘヴン』

同級生からひどいいじめをうけている中学生の少年のもとに「わたしたちは仲間です」というメッセージが届く。会いにいってみると、同じようにいじめられている同級生の少女だった。ぼくだったら、同病相憐れむという感じがして、かなりがっかりすると思うが、このコジマという少女は単なるいじめられっ...

宮沢章夫『時間のかかる読書----横光利一『機械』を巡る素晴らしきぐずぐず』

横光利一(1898-1947)の代表作のひとつである、『機械』という、三段組みで詰め込めば14ページにしかならない中編小説を、月1回の雑誌の連載の中で、11年間132回読み続けたエッセイをまとめた本。『機械』本編も収録されている(青空文庫でも読めるが)。 最初の3回は全然違う話題に...

柴田元幸編訳『燃える天使』

13人の作家による15編の短編、エッセイを柴田元幸が編訳した作品集。アメリカ人5人、イギリス人4人、アイルランド人2人、オーストラリア人とブラジル人がそれぞれ1人ずつという構成だが、スチュアート・ダイベック(相変わらずいまひとつピンとこなかったが)以外は聞いたことのない名前ばかり...

前田司郎『愛でもない青春でもない旅立たない』

脱力系のユーモアと、底抜けにラディカルなシュールさが特長の劇団五反田団を主宰する前田司郎の処女小説が文庫されたというから読んでみた。 主人公の「僕」は大学5年生。何かに夢中になることもなく、学校もバイトもさぼり気味、恋愛もまた流されるまま。そんな怠惰な日常を描いた私小説的な[主人公...

永井均『道徳は復讐である -- ニーチェのルサンチマンの哲学』

永井均のニーチェに関する本を読むのは『これがニーチェだ』に続いて二冊目、内容的には目新しいところはそれほどなく、パフォーマティブな変奏曲集という感じだ。 何度目の当たりにしても、現在公認されている倫理や道徳というものが、ルサンチマン[現実の行為によって反撃することが不可能なとき、想...

コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『ザ・ロード』

久しぶりに心がうちふるえる読書体験だった。 世界の終わりを描いた文学作品は数多くあれど、これはその中でも究極的に苛酷な状況。 おそらく核戦争で地球が焼き尽くされてから何年かが経過したあとの世界。核の冬により気温が急激に下がり、動植物はほぼ絶滅している。ごく少数の生き残った人間たちは、...