読書ノート

池澤夏樹『骨は珊瑚、眼は真珠』

表題作が演劇になるというので、読んでみた。9つの短編が収められているが、まず8番目の表題作から読んだ。死んだあと骨は砕いて海にまいてほしいと言い残して亡くなった夫の視点から、妻がためらいつつもその遺言を実行するのをやさしい眼で見守る。だからといって、死後の世界とか霊魂の存在を前提...

西部邁『保守思想のための39章』

右な人たちの言い分は、その反感に満ちた語り口だけで、聞く耳をもてなくなってしまう。その点、この本は、純粋にいい意味で、奥歯にもののはさまったような語り口で書かれていたので、ちゃんと最後まで読むことができた。筆者自身も、「保守思想の陣営が、いわゆる左翼思想への反感を吐露することに終...

トルーマン・カポーティ(野坂昭如訳)『カメレオンのための音楽』

カポーティは好きなタイプの作家だが、その割にはあまり読んでいない。『夜の樹』という短編集や『ティファニーで朝食を』(原作は映画のような甘ったるいハッピーエンドではなく、それどころか恋愛ものですらない)、それにちくま文庫版の短編集くらいだ。今回読もうと思ったのも、よしもとばななの『...

姜尚中・森巣博著『ナショナリズムの克服』

偏見とか差別などのいやな感情を正論のように語る人たちが増えているような気がして、息苦しさを感じていた。その空気から抜け出す清涼剤のようなものがほしくなって買ってみた。 姜尚中という在日韓国人の政治学者と、森巣博というオーストラリア在住の作家という、いわば日本をちょっと外からの視線で...

沢木耕太郎『血の味』

少年時代に殺人を犯してしまった男の回想という形で物語は語られる。主人公の少年はどこか『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンを思い起こさせる。こちらは寡黙で饒舌なホールンデンとは正反対だが、周囲への不適応、ものの本質をみぬく大人びた視線、自分自身への苛立ちは共通だ。最初は、そういう少...

柴田敏隆『カラスの早起き、スズメの寝坊―文化鳥類学のおもしろさ』

少年時代に昆虫に興味をもったことをのぞいて生き物に興味をもったことはほとんどない。昆虫のときは、彼らにとっては迷惑な話で、ちょっとした虐殺行為をやったりした。 今なぜ鳥かというと、同じ街に棲む仲間だと思えるからだ。散歩していると、さまざまな鳥を見かける。その名前や習性を知りたくなっ...

ポール・オースター(柴田元幸訳)『リヴァイアサン』

才能ある作家だったサックスという男が、いくつかの偶然の積み重ねから、幸福な家庭を投げ捨てて、全米の自由の女神を破壊してまわるテロリスト(人の命は奪わず、メディアを通じてアメリカという国のありかたを改めようというメッセージを流す)になり、結局は爆死してしまう。その事故を知った、やは...

f— title: 金子光晴『マレー蘭印紀行』 author: sugi date: 2008-08-20 url: /book/1847/ tags: [“travel”] 詩人金子光晴が、1928年から32年にかけて現在のマレーシア、シンガポール、インドネシアあたりを放浪した際の旅行記。馬来(マレー)、爪哇(ジャワ)という固有名詞をはじめ、漢字が難しいけど、ぎらぎら照りつける太陽、激しい驟雨、野放図に成長する樹木など南洋のワイルドな自然を描写する文章がとにかくうつくしい。いや、文中の表現を借りれば「うつくしいという言葉では云足りない。悲しいといえばよいだろうか」。 自然同様人々の生き様もワイルドでたくましく、さまざまな民族の人々が貧しさと苦役にあえぎながらもひたむきに生きている。それもまたうつくしく悲しい。 「水は、嘆いてもいない。挽歌を唄ってもいない。それはふかい森のおごそかなゆるぎなき秩序でながれうごいているのだ」。たぶん、人も同じだ。...