『天の煙』

作:松田正隆、演出:平田オリザ/富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ/指定席3000円/2004-10-29 19:00/★★

出演:秋葉由麻、内田淳子、佐藤誓、松井周、増田理、山本裕子、吉江麻樹

劇場は宮殿のようにきれいだったが、富士見市は遠い。それでも駅前ならいいが駅からが遠いのだ。

松田正隆はどうしてしまったのだろう。前回のこのコンビの作品『雲母坂』もそうだったが、これを書いた人がふつうに社会的生活を営んでいることが不思議に思えてしまう。という言葉はいい意味にも悪い意味にも使えるが、今回はちょうど中間くらいの意味で使っている。

「西の西町」という一日中日が沈まない町。母親が死に盲目の姉が残され、そこに東京に出ていた妹夫婦が戻ってくる。というとふつうの家族劇のようだが、この姉というのは父親が死んで以来成長を止めていることになっているし、妹の夫は靴屋になることを強制されるし、彼が作る靴の皮にはふたなりの病人の背中が使われることになっている。おまけに、昔妹がやんごとなき人からの求婚をことわったことからこの町と家の没落がはじまったという事実が明らかにされ、その償いのために処刑されそうになる。というグロテスクな世界の中に観念的なせりふが飛び交う(火葬のときに地上から天にのぼる煙と、天から地上に落ちてくる雷の対比はすばらしいが)。それでも、ついていけなるということはなく、きちんと補助線をひいて興味をつなぎとめる演出が光っていたと思う。ただ、ラストシーンは視覚的にはとても衝撃的だが、ジャンプするには幅が広すぎて向こう岸にたどりつけなかった。衝撃を衝撃として受けとめればいいといわれればそれまでだが。

このところの松田正隆の作品は、動物的なエログロのイメージと神学的な観念という両極端ばかりで、その中間の人間的な詩が見あたらない気がする。