鳥公園『ヨブ呼んでるよ』

ヨブ呼んでるよ

冒頭、主人公のみる夢の中から(インターバルを経て)別の人の夢(それが夢であることはあとからわかるのだが)に移る描写がとてもよかった。夢の中のおじさん、たかおちゃんのキャラクターがいい。

ゴミの山の中に暮らす醜く肥満した風俗嬢が主人公(それを演じる武井翔子さんは金髪とセンスの悪い衣装以外は清楚なままだ)。子供が二人いるらしいが登場せずどこにいるのかわからない。助けてくれようとする人たちがいないわけじゃないのに、そもそも彼女が何に絶望してそういう状態になっているのか最後までよくわからない。

タイトルのヨブは、旧訳聖書の『ヨブ記』のヨブ。神から理不尽な罰を何度下されても信仰を失わなかったとされる人物だ。『ヨブ記』からの引用が劇中何度か唐突な感じでつぶやかれる。観ているときはよくわからなかったのだが、ひょっとすると主人公は自分をヨブになぞらえているということなのだろうか。

上演時間は70分とかなり短い。この時間では語り切れてない感が強かった。ひとつひとつのエピソードはおもしろいのになんかバラバラで物語を動かさない。登場人物の状況や世界の見え方がラストシーンになるまで変化しなかった。

ラスト手前のシーンで唐突な感じで性的虐待を受けた人のドキュメンタリーをみたときの話を主人公がかなり長く語る。これまでの物語の内容と整合しないと思っていたら一般の方のブログの「引用」だそうだ。たぶん何かしらの説明をつけるパートだと思うんだけど元のブログのコンテキストがはりついているし余計わからなくなってしまった。

ラストの歯磨きのシーンは悪くないと思うので、そこに至るまでの道筋をちゃんとつけてほしかった。

作・演出:西尾佳織/こまばアゴラ劇場/自由席3000円/2017-03-18 18:00/★

出演:武井翔子、浅井浩介、黒岩三佳、鳥島明、山科圭太