ケムリ研究所『砂の女』

砂の女

『砂の女』の原作を読んだのははるか昔で、ストーリーは骨格だけ覚えていた。タイトルに引きずられて女が主体的に男を監禁するような印象を持ち続けていたが、実のところ女もまた被害者で、砂を中心としたシステムが主体で、そのシステムの維持のための労働力として男が必要とされたのだった。

砂といえば不毛の象徴なのにその周りに経済システムが構築されるという発想がおもしろい。原作発表時日本は高度成長の真っ只中で、その中で利潤の極端に低いシステムを回していくというところに不条理感があり、いずれ消えていくものという含意があった気がするが、停滞に、打ち沈み砂の中に飲み込まれてしまったような、現代日本から見るとこの作品は、妙にリアリティをもって迫ってくる。

男は当初砂を常に流動し自由を体現する象徴として意識しているが、その砂に自由を奪われてしまうのは、アイロニーがきいている。砂はまた大衆の比喩でもある。インテリである男は、女をはじめとする、状況に順応するしかない砂=大衆が理解できず軽蔑するが、結局はそのなかに飲み込まれ、砂の一粒となる。

長い年月のせいで、原作は戯曲のような気がしてたが、実は小説。だからけっこう自由に脚色されている。当然のように笑いのシーンがたっぷり挿入されていた。なんとなくの印象で不可解な存在だと思っていた女が、今回の演出の緒川たまきさんはけなげな感じで、男の選択にリアリティーを与えていた気がする。

原作:安部公房、上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアタートラム/指定席8800円/2021-08-28 18:00/★★★

出演:緒川たまき、仲村トオル、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲、町田マリー(声とシルエット)、(音楽:上野洋子)