サンプル『あの人の世界』

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作・演出:松井周/東京芸術劇場小ホール1/自由席3500円/2009-11-14 19:30/★★

出演:古舘寛治、石橋志保、田中佑弥、深谷由梨香、芝博文、辻美奈子(ヴィデオ出演)、古屋隆太、奥田洋平、渡辺香奈、善積元、山崎ルキノ、羽場睦子

上下二つにわかれた世界。上の世界の墓が下の世界のつながっているところをみると、下の世界は死後の世界かと思わせる。そもそも「あの人の世界」を略せば「あの世」だ。でも、上下で会話もできるし行き来もできるし、だんだんわからなくなってくる。

上の世界にはペットの犬を亡くして悲しみにふける仲の悪い夫婦がいるだけで、ほとんどの出来事は下の世界で起きる。自分の名前も目的も忘れてさまよい歩く若い男、ミュージカルを通して革命をおこそうと企てる動物の扮装をしたダンサーたちUFA、彼らを統率するホームレスドクターという人物。彼らにあこがれて仲間になろうとする若い女性キク、行方不明者のビラをくばる男、たがいを首輪をひもでつないで束縛しながら彼らの夫であり息子である男性をさがす嫁と姑、という奇妙な人物たちが交錯してゆく。

サンプルの芝居は、まず社会学とか文化人類学なんかに基づくアイディアがあって、それをちょうど現実の出来事を夢がそうするように、変形・歪曲していってできあがるような気がする。個人的には、その変形前のものがみえたときは、心底楽しめるんだけど、そうでないときは狐につままれたような気分になってしまう。今回は残念ながら後者だった。もちろん、狐につままれることも、それはそれで楽しい経験には違いないが。