五反田団『迷子になるわ』

五反田団『迷子になるわ』

作・演出:前田司郎/東京芸術劇場小ホール1/自由席3500円/2010-11-06 19:30/★★★★

出演:伊東沙保、大山雄史、後藤飛鳥、前田司郎、宮部純子

毎日を無為に過ごす30歳の女性ミチルが、夢とも幻想ともつかない自分の記憶の中を彷徨する。

「実在しない」姉との会話、不倫関係にあった恋人オオカワの胸のスイッチ、そのあとつきあい始めたイシダとのどこか不器用な関係、歯医者の待合室に突然現れたまだ存在しないはずの子供など、時系列を無視して虚実入り交じったエピソードの間を渡り歩く。いわば幻想の中で迷子になっている状態だ。と同時に、彼女が人生においても生きる意味や目的を見失って迷子になっていることもだんだんわかってくる。

これまでの前田司郎の作品はシュールな世界観と渇いた笑いが特徴で、ある意味その世界の中に閉じた物語だったが、この作品の女性がかかえている人生の中で迷子になっている感覚はとてもリアルかつ同時代的でありながら普遍的で、外の世界に向けて開かれた感じがする。ミチルを演じた伊東沙保さんがよくチェルフィッチュの舞台にでているからだけではなく、チェルフィッチュ的な要素を感じたのだった。それでラストシーンのカタルシスが生きてくる。

伊東沙保さんは言葉にできない言葉をそのもどかしさを含めてとてもうまく表現していたと思う。いい役者だ。