野田地図『エッグ』

改装されてからはじめての芸劇。

前作『南へ』同様、日本人の影の精神史を描いた作品。『南へ』では自然災害と天皇制をテーマにしていたが、今回はオリンピックと満州、731部隊、そしてもうひとつ噂という名の言霊。エッグという架空のスポーツを媒介に現代、1964年の東京オリンピック、1940年の幻に終わったもうひとつの東京オリンピックと時代を遡っていく。そこでエッグはその本来の姿をあらわす……。というのは実は改装中の劇場(つまりこの芸劇のこと)で発見された寺山修司の幻の戯曲を元にした物語であり、入れ子になった二つの世界が互いに干渉しつつ物語は進んでいく。

実はあろうことか10分間遅刻してしまって、その10分間にこの物語の骨格にかかわる重大な場面が含まれていたので、実際みているときは、かなりちんぷんかんぷんの箇所があった(座席的にセリフの聞こえも悪かった)。観劇後にロビーで戯曲が収録された雑誌を買って、それで補いながら今この文章を書いている。

深津絵里がシンガーソングライターの役で、舞台で実際に何曲か歌った歌がけっこうよかった。役名が苺イチエなのは作曲の椎名林檎にあやかってだろう。と書きつつ、席が遠くて実は最後までそれが深津絵里だということに確信がもてなかったのだが。

それにしても災害をテーマにした『南へ』のときは会期中に東日本大震災が起きるし、今回満州がテーマのひとつのときに日中間で領土問題が深刻化しているし、最近の野田秀樹はなんか妙な星の下にいる。

作・演出:野田秀樹(音楽:椎名林檎)/東京芸術劇場プレイハウス/S席9500円/2012-09-15 19:00/★★★

出演:妻夫木聡、深津絵里、仲村トオル、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、野田秀樹、橋爪功、深井順子、上池春奈、大西智子、秋草瑠衣子、伊藤昌子、大石貴也、大石将弘、川原田樹、菊沢将憲、木村悟、久保田武人、黒瀧保士、河内大和、後藤剛範、後藤陽子、近藤彩香、佐藤ばびぶべ、佐藤悠玄、下司尚美、白倉裕二、竹内宏樹、富永竜、永田恵実、西田夏奈子、野口卓磨、萩原亮介、的場祐太、三明真実、柳沢友里亜