M&Oplaysプロデュース『国民傘 --避けえぬ戦争をめぐる3つの物語』

20110122.jpg

作・演出:岩松了/ザ・スズナリ/指定席4500円/2011-01-22 19:00/★★★★

出演:早織、長田奈麻、太賀、佐藤銀平、足立理、渋川清彦、浅野かや、石住昭彦、三浦俊輔、三上真史、片山瞳、三浦誠己、荒井結子(チェロ演奏)

今年最初の観劇。いきなり年間ベストに入りそうなものをみてしまった。

タイトルにある通り、戦争を背景に、大きく3つの物語が並行して進む。ひとつは、いつも家の前を通り過ぎる男性に一声かけるために傘立てを移動し、そのために拘束される母娘の物語、もうひとつは、小さな印刷工場を舞台にした物語。そこに一見誠実そうな、元兵士の若い男がやってきて働き出し、周囲の人間関係に波紋をなげかけるという話。そして最後に戦争が終わってもさまよい続ける兵士たちの物語。この3つの物語が交錯する。

岩松了の過去の作品では、謎とか不条理的な要素は登場人物の内面に閉じ込められて、物語のレベルまであがってくることはほとんどなかった。それが今回は、物語そのものが謎をはらんだ虚構度の高い作品になっている。おそらく戦争が起きたのは近未来あるいは並行世界の日本。内戦だ。この物語の中では、もう戦争は終わりかけか、完全に終わったことになっている。母娘の物語の中では印刷工場の物語は本の中の小説であることになって、印刷工場の世界では母娘は旦那の弟の元映画監督のシナリオの中の存在だ。しかし、そのねじれはメビウスの帯を真ん中で切断するとひとつの輪になるみたいにひとつの物語として収束する。そのときの目眩に似た感覚が何ともいえず心地よかった。

いつも同様、ねじれた感情をそのまま言葉にしているセリフがすばらしい。もちろんユーモアも。今回はさらにそこに警句のようなものが付け加わっている。戦争に関するものだ。記憶に頼っているので正確さは保証できないが、「戦争は少女が寡黙になる時間をつくる」、「帰るところがない人間は戦争に帰ってゆく」、「愛する人を守ろうとする気持ちが戦争を起こす(大意)」。上で述べたように、この作品はほぼ戦争が終わった後を描いているんだけど、でも人々の心の中ではそれは続いている。おそらく戦争が起きるずっと前からそうだったのだ。

岩松了は、今回のように、小劇場向けに少ない制約の中のびのび書いた作品の方が素晴らしいと思う。最高だった。

三浦俊輔の演技はすごい。というかこの人の怪しさはとても演技とは思えない。

チェロの生演奏もよかった。