『祈りと怪物 ~ウィルヴィルの三姉妹~』

祈りと怪物

今年の観劇納め。のはずが納まらないもやもやが残る舞台。4時間超の今年最大の失敗作というのもそれほどひどい表現じゃなくて、というのもあえて成功パターンをはずしにきてこうなっているからだ。その心意気は買いたい。

以下の記述はネタバレ含む。

ウィルヴィルという町を暴力で支配するエイモス家、当主のドン・ガラスとその三人娘。現在も公然と暴力と略奪が行われているのだ。もちろん彼らに抵抗する人たちもいる。レジスタンス的な秘密組織があるし、なにやら事情のある謎の密航者もいる。娘たちそれぞれの恋愛も描かれる、しかし、こういうオーソドックスな悲劇の材料とまったく別のところ、詐欺師まがいの錬金術師と白痴の二人連れが売りさばいた望みがかなう薬から思わぬカタストロフが発生し、町は破滅に追い込まれる。必然性もなにもないスラプスティックな破滅の数々は悲劇という喜劇だ。ただしまったく笑えない喜劇。ここまできたらエイモス家の物語はカタストロフに呑み込まれてしまった方がいっそすっきりした気もするが、中途半端に続いて、こちらの事情でも人がどんどん無意味に死んでいく。

後味の悪さが濃縮されて煮詰まったところで、ヒールな主人公たちだけが生き残る皮肉な大団円と思いきや、結局彼らはそれぞれ報いを受けることになる。この報いの描写がこの作品の中で一番よかった。

これだけ長いのに笑えるシーンがほとんどなかったのは逆にすごい。ギリシア悲劇のようにコロスという合唱隊がでてきてストーリーの補足をするのはおもしろいけど、はまっているわけでもなく、違和感を楽しむわけでもなく、これもまた中途半端だった。なんだか年明けの蜷川演出版が、この中途半端な作品をどう料理するか、楽しみになる。観る予定はないが。

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ/シアターコクーン/S席9500円/2012-12-29 18:30/★

出演:生瀬勝久、小出恵介、丸山智己、安倍なつみ、大倉孝二、緒川たまき、大鷹明良、マギー、近藤公園、夏帆、三上市朗、久保酎吉、峯村リエ、犬山イヌコ、山西惇、池田成志、久世星佳、木野花、西岡德馬、原金太郎、楠見薫、加藤弓美子、野中隆光、日比大介、皆戸麻衣、猪俣三四郎、水野小論、中林舞、パスカルズ(演奏)