ミクニヤナイハラプロジェクト『前向き!タイモン』

前向き!タイモン

なんだか前半寝落ちとかいうツイートが散見するので、どんな芝居か不安混じりで見にいったら、おそろしい早口で次から次へと繰り出される言葉の強度、それぞれのエピソードが喚起する物語の奔流で瞬きするのも忘れるくらいだった。

登場人物は3人。祖父が一代で築き上げた財閥を引き継いだ御曹司タイモンユウジ。彼は悪いタイモン、普通のタイモン、良いタイモンの三重人格で、絶えず人格交代してはひとりで対話を続けて、ほとんど家から出ることなく、ユリという女性の帰りを待ち続けている。あとの二人は彼に仕えるメイドと、近所に住むリンゴ農家の農民。タイモンはたまたま会った農民の苦境を助けるためリンゴを買い占めてあげる。リンゴの価格は高騰し、その意図の憶測と、異常気象と関連づけるような噂が世間をさわがしている。やがてうまれる裏切りと新たなる出発。これがこの物語を貫く状況。

それを背景に前面にでてくるエピソードが魅力的なのだ。クリスマスに取り憑かれて毎日がクリスマスをしていないと青いモップに追いかけられる妄想におそわれていた祖父(ひよこの雄雌鑑定で財をなした。95%と100%の話)/真実の合言葉「ポップコーン」。高いビルから飛び降りようとしていた女の子を野次馬の中でみていたら、背後から彼女に罵声を浴びせた男がいて、最後にタイモンの目が彼女と合ってしまう/タイモンの友人の、詩人、画家、経済学者、哲学者が登場するポップでコミカルなヴィデオ紙芝居/そして、子供たちが空から落ちてきて死ぬという、農民が語る昔話。都度子供たちというのはリンゴのことなんですけどねと注釈が入る。

上演後買った戯曲を読んで、これがわずか一秒間を描いた物語なのだと知る。なんか特別な場所の特別な状況の特別な人のことを物語ってこの時代や社会が浮かび上がってくるという意味で、神話のようだった。一秒間の神話。

作・演出・振付:矢内原美邦/こまばアゴラ劇場/自由席2800円/2013-08-31 15:00/★★★★

出演:笠木泉、鈴木将一朗、山本圭祐