『十九歳のジェイコブ』

十九歳のジェイコブ

中上健次の小説をサンプルの松井周が脚色し維新派の松本雄吉が演出するという異色のコラボレーション。

日本人なのになぜかジェイコブという名前の青年がドラッグ、セックスにおぼれ無軌道に毎日を過ごしている。ジャズ喫茶でつるむ友人ユキは財閥の御曹司でありながら共産主義に傾倒し、一族が経営する会社のビルの爆破と家族の皆殺しを企てる。ジェイコブ自身も根源的な殺戮の衝動をその身のうちに抱えていた。故郷の街の元雇い主、ジェイコブの母の異母兄ともその母にジェイコブを生ませたとも噂される高木という男を家族もろとも殺すという思いが脳裏を離れないのだ。その男は今はシャブ中毒になり、家族もろとも妙な新興宗教にはまっていた……。

1986年に書かれた小説とのことだが、舞台は70年代だろうか。現代とはまったく状況が違うけどこの時代もこの時代なりに閉塞していて、そこから抜け出そうとするエネルギーが騒々しい暴力的な形で噴出していたのだ(現代では個人は自己責任という檻の中に静かに幽閉されている)。主人公ジェイコブの感情はほとんど描写されない。ただその蓄積された鬱屈と反動としての衝動的な行動が交互に描かれる。

若手の役者ではユキを演じた松下洸平さんがいい。ヘンデルのオラトリオを歌う場面ではよく声が出ていた。あと大阪からきたベテランの俳優陣、特に高木役の石田圭祐さんの特異な風貌と、シャブ中の鬼気迫る演技が素晴らしかった。こんな養殖でない天然物の人間がまだいたんだという感じ。ユキの脚の悪い姉を演じた山口惠子さんの動きが不思議だと思ったら、振付やダンスもやる方だったようだ。あと、もちろん菊地さんの選んだジャズのセレクションは素晴らしくて、ところどころストーリー以上に主張していた。

原作:中上健次、脚本:松井周、演出:松本雄吉、(音楽:菊地成孔)/新国立劇場小劇場/A席5400円/2014-06-28 18:00/★★

出演:石田卓也、松下洸平、横田美紀、奥村佳恵、有薗芳記、石田圭祐、西牟田恵、中野英樹、酒井和哉、チョウヨンホ、山口惠子、新部聖子