葛川思潮社『背信』

背信

おお、メロドラマだ。いろいろ演劇をみてきたけど、演劇はメロドラマにはじまり、メロドラマに終わるんじゃないか。最近そんな気がしている。メロドラマというのはコンテンツというよりメディアなのだ。最小限の背景説明でその上にいろいろなものをのせられる。

お互い家庭を持ちながら密会用の部屋を借りて長い間不倫関係を続けてきた二人の男女ジェリーとエマが久しぶりに会う。エマは、自分たち夫婦が昨夜一晩中話し合いをして別れることを決めたことと、過去の二人の関係を夫ロバートに話したことを告げる。ジェリーとロバートは古くからの親友だった。ショックを受けたジェリーはロバートを呼び出し謝ろうとする。ところがロバートは平然としていて4年前から知っていたといい、ジェリーも自分が知っていることを知っていると思っていたという。

それから、ジェリーとエマの愛を終結からはじまりまで遡って描いていく、それに気がつくロバートを含めて。何気ない言葉が深くえぐるような意味をもってくる。スリリングな会話から目が離せない。ジェリーは一貫して無知なままだ。すべてのシーンで今そこで語られていること、起きていることに気がつかない。ある意味彼の間抜けぶりを揶揄する笑劇としてもみられる。

でも、メロドラマファンとしては、終わってしまったジェリーとエマの愛とその物質的な形象としての部屋への感傷にひたりたい。いやあ、メロドラマってほんとうにいいですね。

作:ハロルド・ピンター(訳:喜志哲雄)、演出:長塚圭史/神奈川芸術劇場大スタジオ/指定席6000円/2014-09-13 14:00/★★★

出演:松雪泰子、田中哲司、長塚圭史