ミクニヤナイハラプロジェクト『桜の園』

桜の園

まず構成に度肝をぬかれる。前半と後半にわかれていて、前半は屋外3箇所で上演されるパフォーマンスのうち好きなものを選んで観ろといわれる。会場は元学校で、屋外というのは校庭のことなのだが、倉庫の上、体育館のバルコニー、中央のモニュメント的なものの前の3箇所に役者たちがいる。この三角形の中で観客は自由にポジションを決めて立ったままきくというスタイルだ。距離的にはほかのグループの声も一応届くことは届くくらいの感じだ。けっこう繰り返しが多いパフォーマンスなので、今この瞬間にほかのグループではもっと面白いことをやっているんじゃないかという疑念がかざして、途中何度か移動してしまった。どれをみたからといって、その先のストーリーがわからなくなるとかまったくないので、安心して好きなものをみればいいと思う。

役者たちはそれぞれ①「桜の園」の所有者、その祖先の霊、霊媒師②桜の園を守ろうとする自然保護団体の最後の一人取材する記者③再開発業者から派遣されてきた人たち、にわかれていた。後半はこの3組が合流する。観客は体育館の中に誘導されるんだけど、その動線と舞台装置がすばらしかった(ネタバレになるので詳しくは書かない)。ほこりがたちやすいので、観客にあらかじめマスクが配布されている。

さて、内容だが、「桜の園」をめぐって対立する関係にある人たち。所有者の男性は過去のしがらみをたちきるために売ろうとしているし、祖先の霊はそれをやめさせようとする。保護団体の女性はかつて自分の故郷を失ったという思いから、せめて最後まで反対してなりゆきを見届けようと思っている。再開発業者は、一応誠意をもち、桜は伐採ではなく移植するといっている。どの立場が悪だとか正しいとかは特にない。この劇の中の応酬のループを通じてその立場は微塵も変化しないし、誰も変化させようと思っているわけでもない。「もう決められたことですから」という開発業者の言葉を誰しもが受け入れている。誰もいなくなった桜の園の上を戦闘機が轟音をたてて通り過ぎていく。

というようにオリジナルのチェーホフ『桜の園』から離れ、現代日本を舞台にして、その圧倒的な閉塞感をけっこう楽しく、おもしろく描いた作品だったと思う。かなり笑えた。

作・演出:矢内原美邦/にしすがも創造舎/自由席2450円(先行割引)/2014-11-15 19:30/★★★

出演:笠木泉、鈴木将一朗、山本圭祐、川田希、光瀬指絵、菊沢将憲、川上友里、佐々木至