水素74%+三鷹市芸術文化センター『わたし〜抱きしめてあげたい〜』

わたし〜抱きしめてあげたい〜

何公演かスキップして久々の水素74%。変わってなさに驚く。登場人物たちは誰もが他者からの全面的な無条件の承認を求めている。太宰治作品をモチーフにした演劇公演ということだが、ぼくが太宰をほとんど読んでないこともあってどこがそうだかよくわからなかった。

幻想の中でモトカノと戯れたり失業したり自己啓発セミナーや宗教に走ったり犯罪に手を染める男たち。彼らが最終的にたどりついたのは無差別で惜しみない愛を降り注ぐ母性だった。彼らは自我の境界を壊しひとつにとけあう共同生活を選ぶ。この作品ではその生活そのものは描かれず、そこに至るまでのそれぞれの道筋を描いている。

自己啓発系のセミナーにはまっている人を引き戻そうとする人の言葉が世間常識でしかなくまったく説得力をもたないように描いているのが興味深かった。それを(少なくとも第三者に向けて)説得力もって語るにはより高次なものが必要とされるのだけど、(この舞台の上の)世界にはそんなものは存在しないのだ。そこにある種の人々のリアルさを感じた。

作・演出:田川啓介/三鷹市芸術文化センター星のホール/自由席2800円/2015-07-04 19:00/★★

出演:玉田真也、兵藤公美、用松亮、黒木絵美花、前原瑞樹、野田慈伸、近藤強、善積元、橘花梨