庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』

人里離れた辺境の湯治場に人形芝居をやる父と息子二人がやってくる。手紙で余興を依頼されたのだ。しかしそこは管理者のいない宿で、手紙を出した人も見あたらないのだった。帰りのバスもなくなり二人は仕方なく宿に一泊することにする。その宿にいるのは近所の村からきた湯治客のおたきさんという老女、盲目の青年松尾、近くの温泉街の芸者二人、屈強だが唖で文盲の三助だ。

戦前の日本文学的な、表面上の静けさ、穏やかさの中に内向した自意識が圧縮されて今にもあふれ出しそうな緊張感をはらんだ空間。人が他者に感じる欲望というか渇望やあえぎのようなものが登場人物からたちのぼる。なんと、一番セクシーだったのは人形遣いの父親役のマメ山田さんだ。

温泉浴場のシーンがあるので役者全員裸体をさらすんだけど、さすがに美しいといえる人は誰もいない。人間という動物の生の姿をみたような感じだ。最初役者の人たちは勇気がいったと思うが。

そしてマメ山田さんが人形と踊る悪魔的なシーンも圧巻だった。人形と父子にただならぬ興味をいだいていた松尾は(目が見えないのに)それをみたせいで激しい幻滅を感じて嘔吐までしてしまうのだ。彼の抑制されているんだけどエキセントリックな演技もよかった。

三味線や胡弓を役者さんたちが自分で演奏しているんだけど、これが意外にすばらしかった。三味線なんてビートがきいていてジャズの生演奏を聴いているような感じだった。

作・演出:タニノクロウ/森下スタジオCスタジオ/自由席3900円/2015-08-29 18:00/★★★

出演:マメ山田、辻孝彦、飯田一期、日高ボブ美、久保亜津子、石川佳代、森準人、(声:田村律子)