AGAPE store『しかたがない穴』

作:倉持裕、演出:G2/新宿サザンシアター/指定席4500円/2004-03-05 19:00/★★★

出演:松尾貴史、山内圭哉、松永玲子、小林高鹿、秋本奈緒美

倉持裕の岸田戯曲賞受賞後第一作。直前にチケットを申し込んだので最後列の端という究極の席になってしまった。だが、観劇歴6年にしてはじめてきたサザンシアターはなかなかいい劇場で、それでも見にくいということはなかった。

ガルガルという国にある地下深くえぐられた穴の底に調査に訪れた一行。だが、肝心の学者たちはどういうわけかいったん引き返してしまい、調査基地に残されたのは日本人五人、ガルガル語の通訳、医師、ノンフィクションライター、カメラマン、もとから基地に居住している案内人、そして来るときにヘリのハシゴから転落して、負傷したガルガル人の学者。通訳の言葉は通じているのかいないのかまったくわからず、医師はまわりの人間の病名を診断していき、ジャーナリストは書いている様子がないのに紙ばかり要求し、カメラマンは憑かれたように奇妙な生物の写真を撮り続け、骨折して歩けないはずのガルガル人は他人の部屋を徘徊する……。

異世界にいって人間が変容していくというのは『惑星ソラリス』みたいだなと思った。倉持裕の本ではいつも時間と空間のトポロジカルなもつれが特徴だけど、今回も部屋の幾何学的な形状がひとつのキーになっている。ロビーからそれぞれ面した部屋にはいけて、隣り合う部屋同士も行き来可能だけど、ロビー同士は部屋を経由するか、ハシゴで上にあがってまたさがらなければ往来できない。昔平面幾何学の問題を解こうとしたときの心地よいめまいを思い出してしまった。ちょっと流れが単調なのが玉に瑕だけど、そういう知的なしかけがうまいなと感じた。