サンプル『離陸』

兄が弟に、妻と一緒に一晩過ごしてその夜起きたことを逐一漏らさず報告してほしいと依頼する。夏目漱石の『行人』から借りてきたシチュエーションだが、舞台は現代だし登場人物ひとりひとりの個性が際立っている。兄はもともとパフォーミングアーティストで今は大学で教えている。とても繊細で傷つきや...

カタルシツ『語る室』

イキウメ別館ということだが、ほぼほぼイキウメそのままの舞台だった。もちろんそれが悪いということは全くなくすごくよかったのだが、だったらイキウメでいいじゃないかと思ったのも事実だ。 ある地方都市で幼稚園児一人と送迎バスの運転手が跡形もなく失踪した事件から5年。関係者は平穏な日常を取り...

ヨーロッパ企画『遊星ブンボーグの接近』

SFっぽいタイトルでテーマは文房具というから筒井康隆の虚構船団的なものを想像していたら全然違った。 近くの遊星から地球に観光客にきている体長数センチの宇宙人ツアー客の一行。彼らが立ち寄ったのは平凡なOLが住む一室。テーブルの裏には彼らの身体くらいの大きさの文房具が置かれている。彼ら...

KERA・MAP『グッドバイ』

太宰最後の未完の小説をベースにウェルメイドなコメディーに仕上げた作品。戦後数年後の東京。編集である田島は、田舎に妻子をおいたままで、闇商売に関わって巨額の財をなし、十人近くの愛人と付き合っていた。そんな彼が、愛人と手を切り、妻子を田舎から呼び寄せようとする。そのための策略としてど...

チェルフィッチュ『女優の魂』

このテキストは小説として書かれたもので、それをそのまま上演しようと主演の佐々木幸子さんが言い出したことからこの企画がはじまったらしい。 長さ40分のひとり芝居。終始ある女優(といってもすぐ元女優だとわかるのだが)の独白という形で進行する。なぜ今は女優でなくなってしまったのかという理...

庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』

人里離れた辺境の湯治場に人形芝居をやる父と息子二人がやってくる。手紙で余興を依頼されたのだ。しかしそこは管理者のいない宿で、手紙を出した人も見あたらないのだった。帰りのバスもなくなり二人は仕方なく宿に一泊することにする。その宿にいるのは近所の村からきた湯治客のおたきさんという老女...

劇団野の上『東京アレルギー』

野の上ははじめてで、「の」の上だから「ね」かなとわけのわからないことを思っていたが、実はこの間みたホエイ『雲の脂』と作・演出の人が同じだった。野の上は津軽に本拠を置く劇団で俳優陣も津軽在住の人が多いそうだが、今回はオール東京キャストで限りなくホエイに近い気がする。ただ、舞台で話さ...

『かがみのかなたはたなかのなかに』

こどももおとなも楽しめる芝居という触れ込み。舞台の手前と奥に境界があって、向こう側が鏡の中という設定。手前の世界の海軍士官タナカと向こう側のカナタ。二人は互いの存在に気がつき、友人になる。毎日ピザの配達にやってくる配達員は実は女性でコイケと名乗った(長塚圭史の女装)。彼女にも鏡の...

水素74%+三鷹市芸術文化センター『わたし〜抱きしめてあげたい〜』

何公演かスキップして久々の水素74%。変わってなさに驚く。登場人物たちは誰もが他者からの全面的な無条件の承認を求めている。太宰治作品をモチーフにした演劇公演ということだが、ぼくが太宰をほとんど読んでないこともあってどこがそうだかよくわからなかった。 幻想の中でモトカノと戯れたり失業...

シティボーイズ ファイナル part.1『燃えるゴミ』

「ファイナル」と銘打ったシティボーイズ3人だけの公演。作・演出に五反田団の前田司郎を迎えて、五反田団的な日常感覚と宇宙的シュールさが直結する笑いと、老境ど真ん中のシティボーイズ3人のゆるさが共鳴していたのではないだろうか。団地のゴミ捨て場でゴミの番をする初老男性3人の物語。 クライ...

青年団+第12言語演劇スタジオ『新・冒険王』

少年時代の平田オリザ自身の体験をベースにイスタンブールの安宿に集う日本人を描いた『冒険王』の続編。前作は1980年の設定だったが、今回は2002年の同じ宿を舞台にしている。正確には2002年6月18日、日韓共催だったワールドカップ日本が敗退し韓国が準々決勝進出を決めた日だ。ちょう...

大谷能生×山縣太一『海底で履く靴には紐が無い』

実質的には大谷能生さんのひとり芝居。大きな枠でいうとチェルフィッチュ系で(それも当然で作・演出・振付の山縣太一さんはチェルフィッチュの主要なプレイヤーのひとりでまさにその世界観を作りあげてきた人だ)、つまり俳優が奇妙な痙攣的な動きとともに日常的な出来事をモノローグ的に語るというダ...

城山羊の会『仲直りするために果物を』

前作『トロワグロ』で岸田戯曲賞を受賞して満を持しての新作。 河原のオンボロ借家に住む貧しい兄妹のもとに大家がたまった家賃のとりたてにやってくる。その大家もこわもての不動産屋に金を借りていて切羽詰まっている。借家に大家、不動産屋、その水商売の彼女が集まって一悶着起こる中、近所に住む一...

イキウメ『聖地X』

新作かと思ったら、2010年に上演した『プランクトンの踊り場』という作品を改題したものらしい。いずれにせよぼくは初見。 アイディアがとにかく秀逸。過去に謎めいた餓死事件が起き、テナントが入ってもすぐに廃業してしまい、よくない噂がたっている場所。そこで今度はドッペルゲンガー騒ぎが起き...

拙者ムニエル『わくわくステーション』

なんと6年ぶりの拙者ムニエルの公演。実質解散状態だと思っていたので、まさかこんな日がくるとは思ってもみなかった。嬉しい誤算だ。 下世話なところを含めて昔そのまま。加藤啓のキレキレのぼけやそれにつっこむ村上大樹の二人の間合いがあいかわらず素晴らしい。腹を抱えて笑った。といってももうみ...

サンプル『蒲団と達磨』

ほんとうは先週見るはずだったのだが、仕事のトラブルでチケットをふいにして、再チャレンジした。 岩松了の1989年の戯曲だ。娘の結婚式の日の夜、畳に蒲団が二組敷かれた古い日本家屋の夫婦の部屋。いかにも小津映画的なシチュエーションだが、登場人物やその間の関係性はかなり異形だ。夫は謹厳な...

M&Oplaysプロデュース『結びの庭』

岩松版『家政婦は見た』かと思いきや予想もつかない展開。 弁護士水島慎一郎と経団連会長の娘瞳子はかつて瞳子が容疑者となった殺人事件の弁護で知り合い、無罪を勝ち得、その後愛しあうようになり結婚した。庭付きの古い洋館に居を構え幸福な日々を迎えているかのように見えたある日、昔の事件の真相を...

シス・カンパニー『三人姉妹』

チェーホフの戯曲の中でも三人姉妹はとりわけなじみ深い作品だ。とにかく上演機会が多いし、登場人物が魅力的だったり、ストーリーに明暗の陰影がわかりやすくきいてるので、印象に強く残る。ぼくも原作を読んでいることもあって強い既視感があったのだが、実際舞台でみたのは2002年の岩松了演出版...

岡崎藝術座『+51 アビアシオン,サンボルハ』

はじめての岡崎藝術座。 日系移民の子孫としてペルーで生まれ日本で育った作・演出の神里雄大さんの私小説的な作品だ。沖縄の親戚と祖先の墓からほとんど記憶にないが生まれ故郷であるペルーに祖母を訪ねた自分のルーツをたどる旅を題材に、日本出身で左翼弾圧から逃れて世界中を転々とした末メキシコ演...

青年団リンク ホエイ『雲の脂』

過疎が進んだ地域の海に面した神社が舞台。氏子の減少で、最近では捨てるに捨てられない不要になった宗教的な遺物をひきとるサービスをして糊口をしのいでいた。そんなある日海岸に一番近い鳥居が倒壊し、それから徐々に境内が崩落していき、白鳥たちが血を吐いて死ぬなどということが起きる。まるでこ...