『カリフォルニアのスーパーマーケット』 by アレン・ギンズバーグ

今度はアレン・ギンズバーグの有名な詩を訳してみる。スーパーマーケットに19世紀の大詩人ウォルト・ホイットマンがあらわれれるという妄想がたまらない。ギンズバーグとホイットマンには詩人ということの他にゲイ(バイセクシャル)という共通点があったようだ。巷の訳ではそこを無視しているものが多いのであえて強調してみた。

ウォルト・ホイットマン、今夜あなたについてなんてことを考えたんだろう、
木々の下の裏道を歩き、頭痛と自意識をかかえて、満月を見ながら。
空腹で疲れながらネタを探して、ネオン・フルーツケバいおかま・スーパーマーケットに入った
あなたの列挙法を夢想して
なんというピーチ、なんという半影ピナンブラだろう!
家族総出で夜の買い物。通路一杯の夫たち、アヴォカドの中の妻たち、赤ん坊はトマトの中
そしてガルシア・ロルカ、あなたはスイカのそばで何をしていたのですか?

ウォルト・ホイットマン、あなたを見かけた。子供のいない、孤独で年老いた漁色家。
冷蔵庫の中の肉をつつきながら、食品係の少年たちに目をつけている
あなたはひとりひとりに質問をしていた。ポークチョップを殺したのは誰だい?バナナいくら?
きみはぼくのエンジェルかい?やらないか?
キラキラ光る缶詰の山を出たり入ったりした、あなを尾行し、想像の中では警備員に尾行されて。
孤独な妄想の中で、一緒に開けた廊下を闊歩した。
アーティチョークを試食し、あらゆる冷凍食品をものにしながら。そして一度もレジを通らなかった

ウォルト・ホイットマン、どこにいきましょうか?ドアは一時間もしないうちに閉まります。
今夜あなたの顎髭はどっちをさしてますか?
(あなたの本に触れたらスーパーマーケットの中で大旅行を夢みて、馬鹿馬鹿しい気分だ)
誰もいない道を夜じゅう歩きましょうか?木々はだんだん影を濃くしていき、
家々の灯りが消え、ぼくらは二人ともさみしくなるでしょう
それとも失われた愛のアメリカを夢見て、私道の青い車を通り過ぎ、
静かなコテージまでぶらぶら帰りましょうか?
ああ、親愛なる父、灰色の鬚、孤独な老人、勇気を教えてくれた人、
冥土の渡し守カロンが船をこぐのをやめると、あなたは煙った岸辺に降り立ち、
ボートが忘却の川レーテの黒い水の上で消えていくのをみていた、
そのときあなたにはどんなアメリカがあったのですか?

翻訳ノート

  • the neon fruit supermarket: 定冠詞がついているので固有名詞的に訳してみた。fruit にはゲイという意味もある
  • What peaches and what penumbras: スーパーマーケットに入って最初に目にしたのが桃というのが謎。しかもそれと対比されるのが penumbra というたぶん日常的には使わない言葉。絵画とか天文とかで、完全な影までいかない薄暗い部分をさしている。性的な暗喩を読み込めなくもないが、さすがにそれはやり過ぎな気もするので、ここでは原語の音の類似をルビで示すだけにとどめた。
  • frozen delicacy: delicacy は単なる食品ではなくごちそうとか珍味というニュアンスが強いが、この詩が書かれた50年代は冷凍食品が一般的になった時代なので、ふつうに「冷凍食品」と訳してみた。
  • Charon, Lethe: 訳の中で説明を補った。