ジエン社番外公演『わたしたちはできない、をする。』

配布されたリーフレットによると、主宰の山本健介さんは去年の半年間金銭的理由で演劇ができずまったく別の賃労働をしていたそうだ。今回の公演の形態はその「できない」から生まれたもので、「演劇ができないのなら、演劇で、演劇ができない、という事をしてみたかった」という通り、「脚本を書いて言...

スタニスワフ・レム(沼野充義他訳)『完全な真空』

架空の本の書評集。ひとつだけ例外的に実在する本の書評が含まれていて、それはほかでもないこの『完全な真空』の書評だ。その自虐的な手厳しさは別として、この中で本書の内容が的確に紹介されている。ひとつ謎なのが、『テンポの問題』の書評についての言及で、それは本書には収録されてない。本書の...

山尾悠子『歪み真珠』

15編からなる掌編集。『夢の遠近法』を読んだのも実はこの文庫の発売がきっかけで、なんかびびっと直感に訴えかけるものがあり、まず初期作品から読もうと思ったのだった。で、ようやくそもそものきっかけの本書に手を伸ばした。 以下は収録作のリスト。 ゴルゴンゾーラ大王あるいは草の冠 美神の通過 娼...

岡崎藝術座『ニオノウミにて』

詩的なモノローグを重ねてゆくこれまでの岡崎藝術座とは異なる新機軸に挑戦している。それが何かというと「能」だ。 難民的な境遇で日本にいる外国人男性が夜湖で釣りをしていると琵琶(実際は琵琶の画像が写ったタブレットに木の枠と柄がとりつけられたもの)を拾う。すると女があらわれ漁師の祖父(ジ...

宮崎企画『つかの間の道』

今年初観劇。 三組の人々のある一日を描いている。特に大きな出来事が起きるわけではないが、それぞれ人の同一性が揺らぐ(例えば連絡が取れなくなった友人と瓜二つの別人と会って行動を共にするなど)ような思いを感じて、そのことで少しだけ癒される。テーマが保坂和志の小説に重なるように思えた。 作...

テッド・チャン(大森望訳)『息吹』

なんと17年ぶり2冊目の作品集。収録作は9編。最初の作品集『あなたの人生の物語』に収録の8変と作品集未収録のOPED一編が現時点で発表されている全作品とのこと。 『承認と錬金術師の紋』。アラビアンナイトの語り口のタイムトラベルもの。タイムトラベルものは大きく歴史の改編が可能なものと...

村田沙耶香『変半身(かわりみ)』

松井周×村田沙耶香のコラボ企画。松井周による舞台をみたので、当然のこととして村田沙耶香による小説版も読んでみた。 演劇版と共通するのは千久世島という離島が舞台であることと、「もどり」という秘祭の存在くらい。芝居ではけっこう重要な役割を果たした、ボーボー様とボビ原人というこの島に伝...

テッド・チャン(浅倉久志他訳)『あなたの人生の物語』

ようやく新作の飜訳が出るというので、復習という意味でなんと15年ぶりの再読。思った以上に忘れていた。 せっかくなので一編ずつコメントをつけておこう。 『バビロンの塔』。本書の半分くらいがそうだが、この世界とは異なる物理法則・トポロジーの世界の物語。これは円盤状の地上と天動説。巨大都市...

『常陸坊海尊』

常陸坊海尊。初めて聞く名前だったが、源義経の従者の一人とのこと。途中で逃げ出して生き延びてその後不老不死の身となり何百年間も源平や義経の物語を見てきたように語ったという説話が残っている。 それで歴史物だと思っていたが、昭和の戦中から戦後にかけてが舞台だった。疎開で東京から東北地方の...

スチュアート・タートン(三角和代訳)『イブリン嬢は七回殺される』

年も押し迫ってきたところで、すごい作品に出会えた。間違いなく今年読んだミステリーの中でナンバーワン(他にミステリー読んでないけど)。 探偵が犯人を見つける単純なミステリーではなく、探偵役の主人公が失敗しながら同じ日を何度も繰り返すというギミックがついている。しかもそれぞれ別の人物の...