アンナ・カヴァン(山田和子訳)『アサイラム・ピース』

長編『氷』に続いて二冊目のアンナ・カヴァン。こちらはキャリアの初期に書かれた短編集だ。 短編集というとおもちゃ箱みたいに多様な作品が含まれていることを期待してしまうが、これは一色といっていいだろう。それも極度に陰鬱な色合いだ。表題作の『アサイラム・ピース』は、精神を病んだ患者のため...

加藤陽子『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』

読み始める前は全く意識してなかったが、もうすぐ終戦記念日。いいタイミングで読むことができた。 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』と同じく中高校生に対して行った講義をまとめた本。『それでも』は、明治維新以来日本が関わった4つの戦争について、その意思決定を取り上げた本だが、今回はそ...

五反田団『偉大なる生活の冒険』

2008年の再演らしいけど、みた記憶も記録もないので、たまたま見逃してしまったのだろう。 仕事もお金もなく元カノの家に居候し続けている男が主人公。やることといえば、拾ったファミコンで古いRPGをプレイすることだけだ。過去と現在の交錯、無為に流れてゆく時間。五反田団の特徴的な要素が詰...

ダフネ・デュ・モーリア(務台夏子訳)『デュ・モーリア傑作集 人形』

ダフネ・デュ・モーリアはヒッチコック映画の『レベッカ』や『鳥』の原作で知られるイギリスの小説家。1907年に生まれて1989年に亡くなっている。これは比較的初期の作品を集めた短編集。 映画化された作品からはサスペンスフルな印象を受けるが、この本に収録されているのは、男女の心のすれ違...

M&Oplaysプロデュース『二度目の夏』

これまでベテラン俳優を使って数々のメロドラマを作りあげてきた岩松了が今回は20代主体の若手キャストで挑む。 染色会社の二代目社長の田宮慎一郎は結婚して一年の妻いずみや従業員たちと別荘に避暑に来ていたが、急な仕事が入り、いずみの相手をさせるため後輩の北島を呼ぶ。周囲の噂になる二人に対...

佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』

ちょっと間があいてしまったが2冊目の佐藤亜紀。最新作から読み始めたが、いったん処女作に戻ることにした。他の作品を知らないので偶然と言っていいかどうかわからないが、『スウィングしなけりゃ意味がない』同様ナチが絡んでくる話だ。 ひとつの身体に2つの人格、バルタザールとメルヒオールが同居...

『ビビを見た!』

あれ、主人公はビビという名前じゃないんだというのが第一印象。それもそのはず。タイトルは『ビビは見た!』ではなく『ビビを見た!』だった。誰が見たかというと、ホタルという生まれつき盲目の少年。彼は謎の声により7時間だけ視力を与えられる。その代わりそれ以外の人々から視覚が失われ、折しも...

奥泉光『グランド・ミステリー』

タイトルや紹介文から、戦時中を舞台に将校が探偵役を務めるミステリーかと思ったが、いい意味で裏切られた。そういう枠組みをはるかに超えるすばらしい作品だった。今年前半に読んだ本で間違いなくナンバーワン。 第一章は、真珠湾攻撃に携わった海軍将校二人の視点から描かれた戦記物の体で進んでいく...

KERA・MAP『キネマと恋人』

ウディ・アレン『カイロの紫のバラ』の飜案。舞台は1930年代の日本の梟島という架空の離島に移しかえられているが、基本的なストーリー展開は同じ。恵まれない人妻が毎日のように映画館で買い詰めるうち、贔屓の俳優が演じるキャラクターがスクリーンの向こうからこちらに声をかけてくるというファ...

柴田勝家『ヒト世の永い夢』

ふざけたペンネームだと思っていたが、作品は本格的だった。名前を聞いただけでワクワクしてくる南方熊楠、江戸川乱歩など昭和初期の名士たちが活躍し、粘菌による人工知能を開発し、少女型「人形」に組みこむという、ロマンあふれるSF巨編。 エンタメとしても王道だが、夢と現実をめぐる哲学論議も奥...