安部公房『飛ぶ男』ebook

B0CVN819LC

安部公房の死後フロッピー・ディスクから発見された未完の作品。当初公開されたのは夫人による編集が入った版立ったが、今回はオリジナルの版が収録されている。そのオリジナルさは徹底していて、末尾は文章として成立してない断片や走り書きもそのまま収録されている。

深夜、教師をしている保根のもとに電話がかかってくる。相手は弟だと名乗り、25年前に亡くなったはずの父親が実は生きていて自分はその息子だという。自分の様子が相手がみているようなので確認すると、彼は 安部公房の死後フロッピー・ディスクから発見された未完の作品。当初公開されたのは夫人による編集が入った版立ったが、今回はオリジナルの版が収録されている。そのオリジナルさは徹底していて、末尾は文章として成立してない断片や走り書きもそのまま収録されている。

午前4時5分、教師をしている保根のもとに電話がかかってくる。相手は弟だと名乗り、25年前に亡くなったはずの父親が実は生きていて自分はその息子だという。自分の様子が相手に筒抜けなので確認すると、彼はなんと今空を飛んでいて保根の部屋を空から見おろしていたのだ。もう一人主要な登場人物は保根の隣室に住む小文字並子。彼女は空を飛ぶ男を目撃し空気銃で撃ち落としてまう。彼女が関わっている製薬特許に関する陰謀が紹介されたところで記述の混乱とともに物語は中断する。

『さまざまな父』という作品が併録されている。ストーリーとしては『飛ぶ男』の前日譚と言えなくてもなくて、父親が透明人間になる薬を飲み、自分が飛行能力を持つくすりを与えられるものの躊躇して飲まないというくだりが語られる。こちらは雑誌に発表されて完結した作品ではあるが、最後は今後の展開を匂わせて尻切れトンボで終わる。

執筆の時系列としては『飛ぶ男』の執筆が中断して数年経った後、『さまざまな父』が公開されたという流れのようだ。その後程なくして安部公房は亡くなる。この経緯を理解すると「完成版を読みたい」というような願望は幾重にも不可能だったことがわかる。

今回読んでて、性に対する意識の鋭敏さとグロテスクなものや残酷な行為への嗜好を感じた。死を意識する状況下でこういう少年的と言っていいような要素がせりあがってくるのは興味深い。あるいは詩的なレトリックが減って残ったのが少年的な要素なのかもしれないと思うとさみしい。

★★

参考にしたページ: 星虹堂書店